古の神と星空
――山岳地帯の山々の中でも高き山。霊峰と呼ばれるミケーネ山には古の神が眠っている。
姿かたちは美しい狼のようだが、背中には大きな翼をもち、口からは勢いよく炎を吐きだすという。気性は荒く機嫌を損ねることがあれば簡単に村ひとつが消滅してしまうとも伝えられていた。それゆえ畏怖の念からか、毎年冬至の日には古の神に供物を捧げる風習があるのだ。
「……?」
この話を始めて聞いたとき、シュナは古い神様って魔物なの…? と疑問に思ったものだ。決して口には出さなかったが幼いながらも漠然とそう考えていたことを今でも憶えている。
だがこの話には続きがあった。怒らせると恐ろしい神様ではあるがもし気に入った人間が現われた場合、強大な魔力と占星術の秘術を授けてくれるというのだ。
一族の伝承によれば、遥かな昔――星読みの一族の始祖はミケーネ山で古き神と出会い、強大な魔力と優れた占星術の知を授かったという。
始祖はその力で、大国の大飢饉を予言し多くの民たちを救ったのだ。その功績から大国の王から召し上げられ一族と共にその力で国をさらに豊かにしたのだ。始祖の功績は歴史に語り継がれるべきなのに…王は民からの人気があった始祖をやがて妬み、あろうことか処刑してしまう。残った一族もすべて辺境の山岳地帯へと追放したのだ。さらには始祖の功績すらも全て抹消し王の功績にすり替える。
権力者は、自分とって都合よい歴史にすべてを塗り替え本当の歴史を握り潰し変えていくのだと、それが悔しくってならないと長である父はよく言っていた。
そして再び一族の者が表舞台に出たとき、大国の王の愚かさと始祖がいかに偉大だったかをすべての民に知らしめる。その為には、かつての栄華を取り戻すことこそが一族の悲願なのだと口癖のようによく話していた。
口では始祖の無念を晴らすようなことを言ってはいるが、結局はかつての栄華を取り戻すことだけを一族は考えている。つまり、辺境の山岳地帯で過ごすことが惨めでしかたがないのだ。現実を見ることなく、いまだに過去の栄光にしがみつき諦めきれないでいる。
しょせんは一族の虚しい夢でしかないのだ――家族に捨てられたせいだろう。僕は今となっては冷めて心境で驚くほど冷静に星読みの一族のことを見ていたのだ。
吹雪が荒れ狂っている日が多い山岳地帯の冬だが、不思議と冬至の日だけは毎年、雪はぱたりと止み綺麗な星空が広がっていた。
僕は星空を見ながら、今までとは違う視野からいろんなことを考えていたのだ。




