家族だと思っていた人たち
――次の冬至の日に、生贄にされることを聞かされた日の夜。
僕はどうしても眠ることができなかった。ゆっくりと起き上がると部屋を出たのだ。そして隣の寝室で眠っているはずの弟を起こさないよう慎重に廊下を歩いていた。
少しでも冷えた外の空気吸い気分を静めようと思ったからだ。けど、いつもなら家族は寝静まっているはずの時間なのに居間には明かりがついていた。なぜか、引き寄せられるようにそっと覗いてみると父と母が話をしていたのだ。
「やっと、この日がきたか…」
「今まで…本当に長かったわ」
僕は思わず柱の影に身を潜める。聞いてはいけない内容だと直感したからだ。それにどんな顔をして会ったらいいのかわからない…。
けど、気がつくとそこには寝室で眠っているはずの弟の姿もあったのだ――。
「父さん…! 母さん…!」
「レイ、どうしたんだ?」
「そうよ、こんな夜遅くどうしたの? 風邪でもひいたら大変。さあ、温かい暖炉の前にいらっしゃい。あなたは私たちの大切な子供なのだから」
「ごめんね、夜遅く。ちょっと眠れなくて水を飲みに来たんだ」
「それなら母さんが台所から水を持ってくるわね。ちょっと、待ってて」
そこには僕の双子の弟レイの姿があったのだ。なぜかはわからないが、僕が隠れている柱をちらりとレイは見たような気がした。気のせいかもしれない。でも…もしかして僕の存在に気づいている?
そんなことを考えていると、レイは神妙な面持ちでこう切りだしたのだ。
「兄さんとも、明日でようやくお別れなんだね…」
「ああ、これでシュナもようやく星読みの一族の役に立つことができる。あんな出来損ない…! 生きていても一族の恥になるだけだからな」
「そうね。太古の神の糧になることができるなんて、こんな名誉なことはないわ。伝承よれば、これで神様の加護を一族が受けることができる。それに私たちの子供はレイだけだもの。お荷物がいなくなってこれで一安心ね」
「うん。そう言ってもらえて僕も嬉しいよ! 星読みの長の家系の嫡男として、絶対に一族を再興させて見せるからね!」
これ見よがしにレイは僕のいる方向を一瞥すると笑っていた。間違いない…。完全に気づいている。僕がここに隠れていることがわかっているんだ。
家族三人は嬉しそうに笑いあっていた。僕という存在なんて始めからいなかったかのように…。
これ以上家族の…いや、家族だと思っていた人たちの話など聞きたくもない。
僕は両手で耳を塞ぐと気づかれないようにその場から逃げるように立ち去っていた。寝ていた部屋に戻ると、嗚咽を漏れないよう声を押し殺し毛布に顔を押し付けると、泣きながら眠りについたのだ。
――そして数日後の冬至の日の夜。
僕はミケーネ山の祠へと贄として連れていかれたのだ。




