情報収集?
――キャウ、キャフ! キャウ、キャウ♪
道端に生えている春の花の匂いをかいだり、新緑の草の中を楽しそうに跳びはねたりしながら前を進むオニキスとは違い、僕は憂鬱な気持ちで丘へと続く一本道をトボトボと歩いていた。
なにしろこれからオニキスが足跡をつけてしまったあの本を、ぐるぐる眼鏡の男の人のところに返しに行かなければならないのだ。
どうしよう…。絶対に怒られるよね。
そのことについてオニキスに注意はしてみたが、オニキスは首を傾げるだけで、よくわかっていないみたいだった。いまいち意志の疎通がとれていないのは仕方ないけど、お互い言葉が話せればいいのにと僕はそんなことをぼんやりと考えていたのだ。
そして、その本についてだが、最初はそのまま道にそっと置き見ないふりをしそのまま逃げだそうかと考えたが、すぐに思いとどまる。それではあまりにも後味が悪すぎる。
もちろん、そのまま本を持ち去るだなんて論外。それでは完全な泥棒になってしまう。もしそれをきっかけに、盗みなどを繰り返していたら、きっと後戻りが出来なくなってしまう。僕にとってそれはとても恐ろしいことだ。そんなことはできないよ。
最低限、一人と一匹ならなんとか食べていける。僕には薬草の知識やマタギとしての狩りの技術だってある。それにオニキスだって火をつけたり、食べれる草を見分けたり狩りも得意だ。お互い一緒なら自給自足で暮していけるし、それに薬草や動物の肉や毛皮を売って多少なりともお金を稼ぐことだってできる。僕たちは生きてくための術は身につけているのだ!
けど…その前に、今は落ちていた本を返しに行かなければならない。――これから先のことを考えるのはその後だ。
僕は心を落ち着かせると情報を整理する。まず、あの男の人はケルンではかなり有名な人だということがわかった。
名前を――サミュエルさんという。数か月前に帝都から来た変わり者の学者先生のようで、今は街から少し外れた丘の家に一人で住んでいるそうだ。
その話を教えてくれたのは近くでリンゴを売っている恰幅のよい露店のおばさんだ。その人は僕がサミュエルさんとぶつかったあの場所の近くで露店をだしている。僕があの後、本を抱えたまま呆然と立ちつくしていると話しかけてきてくれたのだ。
どうやらかなりお節介焼きのおばさんのようで、僕がぶつかった男の人のことについて聞いたり、落としていった本を返したいと伝えると、おばさんは快くいろいろなことを教えてくれたのだ。
ちなみにサミュエルさんは、初め街の人たちからは帝都からきた怪しいよそ者と警戒されていたようだ。しかし、話してみると気取ったところもなく、裏表もなくかなり抜けてはいるが、のんびりとした朗らかな性格で、気がつけば辺境の街に馴染んでいたらしい。今では月に一度、街の子供たちを集め読み書きを教え、街に貢献してくれているそうだ。
「……!!」
しかし、それを凄い勢いでしゃべり続けていたので僕は少し面食らった。いろんなことを露店のおばさんは教えてくれ、と、とてもありがたいと思ったが…僕としてはついていけないくらい話が長かった。
ちらっと横を見ると、よほど退屈だったのかオニキスは地面に座り込み眠たそうに欠伸をしていた。しばらくは暇そうにウトウトしていたが、そのうち丸くなりスヤスヤと本格的に眠りだしたのだ。
その姿を見て僕はこう思う。その気持ち本当によくわかるよ、オニキス。それくらいおばさんの話、長いよね…。かなりのおしゃべり好きなんだね。
今度から、程よいタイミングで切り上げなければ永遠に話は続くのだと、シュナは人生の教訓として学んだのだ。




