火を起こす術
――あれから僕たちは、祭壇の間と村の猟師たちが使っている洞窟を行き来していた。
距離はそれなりにあるが、慣れてしまえばどうってことない道のり。
もちろん、あれから洞窟の探索も続けてはいるがめぼしい成果は得られなかった。行き止まりや、同じところをぐるぐる回っていたり、オニキスしか入れないような小動物用の謎の通路があるだけだ。僕が最初に通ってきた道もやっぱりわからないまま…。
だが幸いにも、今のところ洞窟内で魔物と遭遇することはなかった。もちろん油断はできないし、用心するに越したことはない。
けど今日は――洞窟の探索はお休みして、思い切って試したいことがあった。
今までは細々と保存食でなんとか食いつないできてはいるが、育ち盛りに子犬のオニキスにも栄養あるものを食べさせてやりたいし、僕も温かいものが食べれないかと思ったのだ。
そう火を起こし温かい料理を食べてみたい! ちょっとしたささやかな願い。
もしここで火属性の生活魔法を操ることさえ出来れば何の問題もないのだが…僕は誰でも使える生活魔法すら使えない有様。
けど、ここは村の猟師たちが寝泊まりをするために使われている場所ということもあり、最低限生活に必要な道具は置いてあった。
例えば、狩で獲ってきた動物をさばくための小刀や調理をするための鍋。それに団をとり煮炊きするための薪や枯草、火打石なども念のために置いてあるのだ。
魔力が高く星読みの才がある者は一族での地位は高い。けど魔力が少ない者たちは、地位が高い者の役に立つため重労働を強いられていた。猟師もまた一族では最下級の職のひとつと決められている。当然彼らの地位は低く、シュナも生贄に選ばれなければ猟師になっていただろう。
猟師になるものは、魔力量が少ない者が多く魔力切れを起こしたときに備え、火をつけるための道具も念のために用意してあるのだ。
シュナは洞窟の出口に近いところに移動し、薪を準備する。水の代わりに外で掬い上げた雪を鍋の中へと入れ、薪の内側には藁を敷く。そして藁の近くに屈むと、二つの火打石を何度か両手で打ち合わせ火花を散らしていく。
オニキスは火花に怖がることなく、興味深そうに尻尾をふりふりちょっと離れた所でシュナの手元を見ていた。
火花は何度も散ってはいたが、結局はそれだけだった…。何度も何度も試してはみるが、段々手がしびれて痛くなってくる。
やっと火花が藁に移り小さな火が灯ると、なんとか火種を大きくしようとシュナは息を懸命に吹きかける。でもその甲斐虚しくやがて消え、煙が出るにとどまる。
シュナは泣きたいくらいに悲しくなった。ここでも、火属性の生活魔法が使えないことがこんなハンデになるなんて。情けなくってとても悔しい…。
そんな僕の様子を傍らでオニキスは、ただじっと見ていた。
僕は情けない自分の姿を見せたくなくって後ろを向くと膝を抱え座り込む。泣くのを必死で我慢していると…。
頬にもふっと温かいものが触れたのだ。
ふっと視線を向けるとすぐ傍にはオニキスの顔がある。心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。ただそっと寄り添うと僕が元気になるまでそのまま一緒にいてくれたのだ。
そして、僕はいつの間にかウトウトと膝を抱え眠りかけていた。そんな時――
「キャウ、キャウ!」
すぐ近くでオニキスの声が聞こえたのだ。
そしてパチパチと火がはぜる音。僕は眠たい目を擦って火を起こそうとした場所を見てみると、なんと薪には火がついていたのだ。




