たよれる子犬
――ミケーネ山には幾つもの天然洞窟が存在する。
そのほとんどは、迷路のように入り組み魔物が住み着いている可能性が高いため立ち入りを禁じられていた。
けどごく僅か…構造が単純で安全だと判断された洞窟は保温性に優れているため、食料貯蔵庫や猟師たちが寝泊まりをする猟師小屋代わりとして使われていた。
当然そこには、狩りをするための道具や、食料、煮炊きするための簡単な道具などが置かれている。
ここまでの物が揃っているのは非常にありがたい。
真冬の季節――古の神が目を覚ますと伝えられており、掟として村の猟師たちはミケーネ山には決して立ちいらない。ならば春が来るまでの間、この場所を使うことができるのだ。
「ヤッター!! オニキスありがとう! これで僕たち、生き残れる可能性が高くなったぞ!」
僕は嬉しさのあまりオニキスの両脇を掴むと抱き上げ、目の高さまで顔を持っていくと頬擦りをする。もふもふの毛がとても柔らかくって温かい。
オニキスに僕の言葉の意味が解っているかは不明だが…それでも、そうだ、そうだ! もっと褒めてもいいんだぞっと言いたげに、ふさふさの尻尾を振りながらちょっと得意げな顔をしていたのだ。
僕は嬉しさのあまり、ついはしゃいでしまいオニキスを抱き上げてさらに喜びを伝えていたが、さすがに嫌になったのか僕の腕をするりと抜けると地面に着地する。
「ご、ごめん…」
つれないその反応に僕は、はしゃぎすぎてしまったことに気づき、反省したのだ。
だがオニキスは僕の様子など気にもせず、突然てくてくと歩きだしたのだ。時折、後ろを振り返るとまた歩きだし、そして――
「キャウ」
一声鳴いたのだ。自信に満ちた態度、堂々とした足取り。今度はちゃんとついてくんだぞっと言っているみたいだ。
オニキスに促されるまま僕は黙って後をついていく。そして洞窟の角を曲がると、突然眩しい光が見えたのだ。そこに広がっていたのは眩いばかりの一面の銀世界。
久しぶりに見る外の景色だ。空を見上げるとほのかに明るいが、真っ白な厚い雲に覆われ雪がちらついている。これでもし空が晴れ渡り星空を見渡すことができれば、星読みができる。春が訪れるまでの日数、暦の正確な月日だってわかるのだ。
オニキスはお座りをすると僕の顔をじーと見つめていた。オニキスはやっぱり不思議な子犬だ。か弱くって小さな存在に見えるのに、ときどきとてもしっかりしていて僕よりも頼もしい。
食いしん坊だけど、温かくって優しい存在。これからも、できれば一緒にいられたらと僕は願ったのだ。




