保存食の小魚
なんか…見覚えのある小魚のような気がするんだけど…。
シュナは、オニキスが口から落とした干からびた小魚を拾い上げるとまじまじと見つめたのだ。
そして――
「あ…」
これって、一族の村から山ひとつ向こうにある湖。その湖から夏季限定で獲れる小魚だ。そのまま食べるには身が少なく骨と皮ばかりで、村では日に干して保存食として利用していたのだ。だが問題は味だった。苦みが強くかなり癖があるので一般家庭ではあまり食べられてはいない。主に村の猟師が携帯食と食べていたものだ。
その保存食に用いられている小魚がこの洞窟にあるってことは、もしかして…。
正面のオニキスを見れば、灰色の尻尾をご機嫌にゆらゆら揺らし、麻袋の中の小魚をまだ食べていた。よく見ると直立の耳は外に出ているが…麻袋の中に顔だけを突っ込みぼりぼりと食べている。
なんかオニキスの顔が麻袋になっているな…。気がつけば、ついどうでもいいことを考えてしまっていた。
とにかくシュナは状況を理解すると、慌ててオニキスから小魚が入っている麻袋を取り上げたのだ。
「きゃう~」
オニキスは食事中に急に袋を取り上げられ、ちょっと不満そうな顔になるが、めげずにそのままちょこんっとお座りをすると灰色の耳が垂れ、ウルウルとした悲しそうな目になり僕の顔を見つめてくるのだ。
その目は――まだ食べている最中なんだよ。もう少し食べさせてよ~と可愛く訴えていた。
「は…!」
なんか凄く心に突き刺さり罪悪感に苛まれてしまう。物凄く可愛いが…僕は心を鬼にする。今後の冬の食糧問題を冷静に考えても備蓄にまわすべきだ。
それに食べ過ぎはよくない。そう思い僕は小魚が入っている袋を泣く泣く取り上げたのだ。
けど、チラッとオニキスの方を向けば…可愛くお座りをしてウルウルした目で僕の心に切実に訴えかけてきたのだ。
「……!」
「こ、この食糧を発見したのはオニキスだし…凄いよ。お手柄だよ! だから、もう少しだけなら食べてもいいかな。ただし、お腹を壊したら大変だからあと二匹だけだぞ!」
「キャウ!」
オニキスはぱっと顔を輝かせると、美味しそうに二匹の小魚の口に頬張り幸せそうに食べていたのである。
僕は…オニキスにとことん甘い。その自覚はあった。
でも――オニキスがいなかったらこの場所さえ見つけることができなかった。お手柄であることには間違いないのだし、とシュナは自分に言い聞かせたのだ。
あらためて周りを見渡すと、オニキスが引っ張り出し食べていた小魚の麻袋の他にも、ちょっとした洞窟の窪地にには、人為的な道具が置かれていることに気がつく。
間違いない。ここは村の猟師が使っている洞窟だ。
シュナは暗闇が広がっていると思っていた未来に、小さな希望を見出していた。




