〜 日本の夏・悲劇の夏 ③ 〜
〜 日本の夏・悲劇の夏 ③ 〜
ソヒョンの立っての願いで女装してソヒョンの両親と会う事になった僕……
島本さんとアッちゃんに助っ人をお願いしたのはいいのだが……
いつの間にか本題を忘れてコスプレ撮影会になっていく。
というより、島本さんやアッちゃんは初めから僕のコスプレ撮影会をするつもりだったのであるが……
そして、今は昼食と保養をかねて温泉施設に来ている。
家族風呂の予約が取れたので島本さん達の女子3人は家族風呂に行ってもらうつもりだったのだが……
何故か、僕が家族風呂に入るようになった。
と言うわけで僕は1人寂しく家族風呂に入っている。
その頃、島本さん達は大浴場に入っていた。
「誰もいないわね……」
大きな女湯には島本さん達3人以外には誰も居なかった……
「完全に貸し切り状態ね……」
「中途半端な時間だからかな?」
島本さんがポツリと呟いた。
「さてと……時間もあまり無いですし……」
「さっさと風呂入って……帰るとしましょうか」
アッちゃんはそう言うと頭から掛け湯をして温泉に入る。
「あ〜いいわぁ〜」
アッちゃんは肩までドップリと湯に浸かって首をコキコキしている。
「この所、コスチューム作りで深夜まで起きてたから……」
「温泉が肩と腰に沁みるわぁ〜」
「コス作りの疲れが癒えるぅ……」
すると絵梨香と島本さんもアッちゃんの隣に入ってくる。
「敦子、私のコスチュームもよろしくね」
島本さんがニッコリと笑って言うとアッちゃんの湯で赤くなった顔が真っ青になる。
「それはそれとして……」
「島本さんさっきのアレは少し酷すぎますっ!」
「女子だけならまだしも……」
「お兄さんのいる前で……」
「あんな恥ずかしい……」
アッちゃんは島本さんにブツブツ文句を言う。
「ごめん、ごめん、ちょっとやり過ぎたわ……」
「……つい嫌な昔の事を思い出しちゃってね……」
島本さんはドス黒いオーラを放ちながら暗い声で無表情に言う。
「私も絵梨香ちゃんぐらい……胸があったら……」
「……絵梨香ちゃんぐらい……その半分……4分の1……でもあれば……」
「……私の……人生…変わってたかもしれない……」
あまりに重い島本さんの言葉に絵梨香もアッちゃんも沈黙してしまう。
「まぁ……その……そっちの需要も有りますから……」
アッちゃんが必死でその場を切り抜けようとする。
「ねぇ、絵梨香ちゃん……」
「なんで、そんなに大きいの?」
島本さんはお湯にプカプカ浮いている絵梨香の大きな胸を遠い目で見て諦めたように呟く。
「なんでって言われても……」
「そんなの分かんないです……」
「勝手に大きくなったんだから……」
島本さんの重い言葉と突き刺さるような羨望の視線に流石の絵梨香も困っている。
そんな島本さんと絵梨香の会話を隣で聞いていたアッちゃんは不敵に笑う。
「でも、島本さんっ!」
「この世には上には上がいるんですっ!」
「絵梨香より更に凄い化け物が……」
アッちゃんの言っている"化け物"とは言わずと知れたメリッサである。
「もしかして……和泉君の……」
「確か……メリッサさん……だったかしら……」
島本さんは、アッちゃんの言っている"化け物"がメリッサだと言うことが直ぐにわかる。
「あのコスチュームを小細工無しの素で着こなしてる人、見たの初めてだから……」
「私から見れば……アレはもう、人じゃないわ……」
島本さんの言葉は圧倒的戦力差を前に心が折れた兵士のような絶望感に満ちている。
「そうかなぁ……島本さんにしかできないコスプレだってあ のに……」
絵梨香はポツリと呟くように言う。
「例えば……ーーとか、□□とか……」
絵梨香は幾つかのキャラの名前を口にする。
「……それ全部……貧乳キャラよね……」
島本さんは悲しそうに呟くのであった。
島本さんにとっては全く嬉しくないのである。
先に温泉から出てきた僕が扇風機の前に座って涼んでいると島本さん達が部屋に入ってくる。
「ふぁ〜涼しい……」
「随分とエアコンが効いてるわね……」
島本さんはそう言うと一息ついている。
絵梨香とアッちゃんはエアコンの吹き出し口の下で涼んでいる。
温泉上がりで暑いだろうと思って部屋のクーラーの設定温度を下げてある。
フロントに頼んで飲み物もオーダしてある。
島本さんやアッちゃんは何度も家に来ているので飲み物の好みはわかっている。
アッちゃんはアイスティー、絵梨香はコーラ、島本さんは生中を用意してある。
因みに僕はアイスコーヒーである。
「あっ、そこに飲み物ありますからどうぞ……」
僕は島本さん達が一息ついた所で飲み物を勧める。
「和泉君、本当に気が利くわね……」
島本さんはそう言うとビールをゴクゴク飲む。
アッちゃんはストローで絵梨香は腰に手を当てコーラを一気飲みである。
本当は僕もコーヒー牛乳を腰に手を当て一気飲みしたいのだが、残念な事にここのメニューにコーヒー牛乳はない……
「やっぱり、風呂上がり一杯は最高ね」
島本さんはそう言って空になったビールジョッキを食卓に置くと深い息を吐く。
「そうそう、和泉君、例⚪︎△⚪︎⚪︎のイベントだけど……」
「出演するんでしょう?」
島本さんが尋ねてくるので僕は頷く。
「はい、出演する予定ですけど……」
「何か不都合でも……」
僕は何か不都合でもあるのかと不安になってくる。
「あのスケジュールだと……」
「今回のイベントに私は同伴できそうにないのよ……」
「流石に2週間も仕事は休めないのよね……」
島本さんは申し訳なさそうに僕に言う。
僕としては島本さんが働いていると言うことの方が驚きであった。
今まで比較的、自由に時間が取れていたようなので僕は自分で勝手に定職に就いていないとばかり思っていたからである。
大変失礼な勘違いをしていたのだと反省し、改めて島本さんに感謝する僕であった。
「島本さんはどんなお仕事をなさっているのですか?」
僕は興味本位で島本さんに尋ねる。
「あ〜製薬会社に勤めているのよ……」
島本さんは少し口を濁すように答えると側からアッちゃんが口を出してくる。
「こう見えても島本さんは□□□製薬の研究員なんですよ」
「腐女子で脳ミソ腐ってる割には嘘みたいに頭がいいんです」
「〇〇大学院卒のエリートなんですよ……」
「いいお給料もらってますし……」
「俄には、信じられないでしょうが事実なんですよ」
「私もサークル仲間からこの話を聞いた時は始めはネタだと思っていましたから……」
アッちゃんはまるで自慢するかのように話すのだが……
「私なんて和泉君に比べたら大した事はないわよ……」
「私の大学なんて世界で5本の指に入るスタンフォード大学に比べたら……」
島本さんは謙遜しながらもいつのまにかアッちゃんにプロレス技をかけていた。
「ひんぎぃーーっ!」
「痛いっ!痛いっ!ひいっ!」
「ごめんなさいっ!許してぇ!」
技きまると同時にアッちゃんの悲鳴が響く。
池田敦子……通称アッちゃん、本当に懲りない女である。
さっきのような恥ずかしい技はかけらなかったのが唯一の救いであった。
アッちゃんの悲鳴を聞きながら僕はある事に気付く……
"と言う事は……長澤さんも同じ大学って事だよな……"
島本さんよりも長澤さんも〇〇大学だと言う事に驚く失礼な僕であった。
何にせよ今度は心強いボディーガードがいないと言う事である。
そして、撮影会の時に使っていたなかり高価なデジタルカメラをどうして島本さんが持っていたのか?
その理由もわかったのである。
〜 日本の夏・悲劇の夏 ③ 〜
終わり




