〜 日本の夏・悲劇の夏 ② 〜
〜 日本の夏・悲劇の夏 ② 〜
僕と絵梨香達はタクシーで町が運営する公共の温泉へと向かっている。
僕と絵梨香、島本さんとアッちゃんがそれぞれタクシー2台に分乗している。
「ねぇ、兄さん、メリッサさんとは上手くいってる?」
絵梨香は僕とメリッサの事が気になっているようである。
流石に"もう付き合ってやる事はヤッてます"とは言えない。
「メリッサとは仲良くしてるよ……」
「今年の冬も日本に来るよ」
僕が答えると絵梨香は"ふうん"と言う表情になる。
そして、暫くの黙り込んだ後で……
「もう、ヤったの?」
絵梨香らしい、脈絡の無いダイレクトな質問に僕は咽せ返る。
咽せ返る僕の様子を見て絵梨香は"ははぁ〜ん"と言う表情になる。
絵梨香の顔はスケベオヤジそのものである。
「あっ、そうそう、メリッサさんってモデルやってんの?」
絵梨香は思い出したように僕に尋ねてくる。
おそらく、これ以上は不味いと思って話題を逸らしたのだろう。
「えっ?どして、そんな事聞くの?」
僕はメリッサがモデルをしている事を絵梨香が知っていることに少し驚き慌ててしまう。
「この前にオーストラリアに遠征にいった時に……」
「試合会場にバスに乗って移動中にデッカい広告看板の横に信号で停まってね……」
「その広告の女性がメリッサさんそっくりなのよ……」
「もしかしてって思ってネットで調べたら……」
「やっぱり、メリッサさんみたいなのよね……」
「兄さんなら本当のことを知ってるんじゃないかと思って聞いてみたの」
どうやら、隠し通せそうにない。
「……そうだよ、絵梨香の言う通り……」
「メリッサはモデルしてるよ……」
僕が素直に答えると絵梨香は"やっぱり"と言う表情になる。
「やっぱり、あの広告の女の人はメリッサさんだったんだ……」
「凄いね……有名ブランドの専属モデルだなんて……」
「兄さんしっかり捕まえておかないと逃げられても知らないよ」
絵梨香はそう言うとオヤジのスケベ笑いをする。
「まぁ……兄さんもかなりのハイスペックだから……」
「メリッサさんに逃げられても心配ないっか……」
僕にとっては笑えないジョークであるが本人には悪気は全くない相変わらず絵梨香は絵梨香であった。
因みに、"メリッサさんに逃げられても心配ないっか……"は絵梨香なりのフォローである。
「そう言う絵梨香はどうなんだ?」
「いい感じのボーイフレンドの1人や2人はできたか?」
僕の問いかけに絵梨香の目が泳ぐのがわかる。
どうやら、絵梨香に異性の事など聞くだけ野暮だったようである。
もう一台のタクシーには島本さんとアッちゃんが乗っている。
「温泉とご飯って和泉君って本当に気が効くわね……」
島本さんが感心したように言うとアッちゃんも頷く。
「なんかコミケ後の打ち上げみたいな感じがしますね」
島本さん達のサークルは夏コミのような大規模なイベントが終わった後で近い身内だけで打ち上げをする事がよくあるからである。
「それよりも敦子、今年の夏コミなんだけど……」
「例のコスはできてるの?」
島本さんが敦子ちゃんに尋ねる。
「あ、あのコス……ですね……」
何故かアッちゃんは目線を逸らし返事をしない。
「敦子まさか……」
島本さんは嫌な予感がする。
「まだ……できてません……」
「その……お兄さんのコス作りに夢中になりまして……」
アッちゃんは声を震わせながら理由を話す。
「敦子……夏コミ迄に間に合わなかったら……」
「……わかってるわね」
島本さんはニッコリと笑ってアッちゃんの方を見る。
「はいっ!何とかしますっ!」
「絶対にっ!この命に変えてもっ!」
「夏コミ迄には間に合わせますっ!」
身の危険を感じたアッちゃんは何かに怯えらように声を震わせながら誓うのであった。
どうして、アッちゃんが声を震わせるほど怯えたのかはこの後にわかる事になる。
タクシーは渋滞に遭うこともなく目的地の温泉施設に到着する。
着替えは持ってきていないので着てきた服をそのまま着て帰る事になるが絵梨香達はあまり気にしていなようである。
因みに僕は変えの下着は用意してある。
受付け済ませて部屋に案内してもらう。
和室本間畳張の八畳の個室である。
地方の温泉旅館によくある、やや古びた漆塗り木製の大きな長方形の食卓が部屋のど真ん中に鎮座している。
皆んなお腹が空いているのでとりあえず食事をする。
この温泉施設の食事は値段の割にはかなり良い懐石料理が出される。
「凄いわね……」
部屋の大きな食卓に並べられた料理を見て島本さんとアッちゃんが呟く。
僕と絵梨香はここの常連なので何とも思わない。
其々、座布団に座ると島本さんがスッと立ち上がる。
「皆んな、お疲れ様でした」
「無事に撮影の方も終わりましたし……」
「心ばかりのものですがどうぞ……」
島本さんの音頭で絵梨香もアッちゃんも食べ始める。
その様子を僕は唖然としている。
何故か島本さんが幹事になっているからである。
しかも堂々と"撮影会"と明言している。
唖然としている僕を見て島本さんが"ハッ"となる。
「あっ、ごめんなさいっ!」
「いつもの癖でつい取り仕切っちゃって……」
「い、和泉君からも……」
流石に島本さんも恥ずかしそうである。
「あの、皆様ありがとうございます」
「僕の私情で皆様にご足労いただき感謝しております」
「これは僕の心ばかりの御礼ですので遠慮なくどうぞ」
僕がお礼を言うと島本さんも食べ始める。
雑談をしながら食事を楽しんだ後で温泉に入る。
家族風呂もあるので内線で問い合わせてみると5時まで1時間の空きがあったので予約する事ができた。
内線で予約をした時に担当の方が「女性の方4名様ですね」と言われて思わず"はい"と返事してしまった僕であった。
家族風呂が1時間使える事を島本さん達に伝えると……
「兄さんも一緒にどう?」
絵梨香が僕に尋ねてくる。
ここに来た時は、いつも家族で一緒に入っているからである。
「えっ?」
そんな絵梨香に島本さんとアッちゃんは驚いて固まっている。
「絵梨香……流石にそれは無理だよ……」
僕が呆れたように言うのだが……
「そうなの?」
絵梨香は隣で固まっているアッちゃんに尋ねる。
「絵梨香っ、私や島本さんはねっ!」
「絵梨香のようにスタイルも良くなければっ!」
「立派なモノも無いのよっ!」
「私は雀の涙ほどでもあるにはあるけど……」
「島本さんなんて"まな板"よ正真正銘の"まな板レーズン"っ!」
「完全に真っ平なのっ!わかるでしょっ!」
「恥ずかしくてとてもじゃないけど人前で脱いだりできないのよっ!」
アッちゃんは力一杯拳を握りしめて絵梨香に力説する。
"あ〜そう言えば、確か……"
"以前に長澤さんの運転でスタジオに行った時に……"
"長澤さんがそんな事を言ってたよな……"
僕の記憶の片隅にあった長澤さんの言葉"まな板女"が蘇る。
その後の長澤さんとの壮烈な黒歴史の暴露合戦の時に長澤さんが言った事も同時に思い出す。
"島本、胸の無いのが原因で好きな男にフラれてるんだよ……"
"それも、1度や2度じゃないのよ……"
"好きになった男が尽く巨乳好きだったのよ……"
つまり、島本さんにとっては"胸が無い"と言う言葉は思い出したくもない無惨な失恋を仕舞ってある記憶の引き出しの鍵となるのである。
力説するアッちゃんの後ろで島本さんが背後霊のように立っている。
僕の目には島本さんの全身からドス黒いオーラが立ち昇っているように見える。
島本さんの様子に絵梨香も顔面蒼白である。
「あ〜つぅ〜こぉ〜」
今の島本さんは、番町皿屋敷のお菊さんのようである。
「ひっ!」
島本さんの気配に気付いたアッちゃんがお化けに遭った時のような悲鳴を上げる
以前にもアッちゃんは、メリッサのコスチューム合わせの時に同じ過ちを犯している。
今回と同じような調子で絵梨香のお腹の贅肉を掴んで同じような口調で力説したのである。
そして、絵梨香に全身を擽られて悶絶した挙句に昇天させられたのである。
アッちゃんの懲りない性格はどうやら是正されていないようだ。
偉そうな事を言っている僕も"懲りない"と言う点ではアッちゃんと同類なのであるのだが……
「ひいぃーーっ!」
「痛いっ!痛いっ!痛いぃーーっ!」
次の瞬間、アッちゃんの悲鳴が響く、いつの間にか島本さんのコブラツイストがきまっていた。
「ひいーーっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!」
「許してぇっ!!!」
アッちゃんは死にそうな声で謝罪するが次々に島本さんのプロレス技が炸裂する。
「本当はレーズンみたく黒くありませんっ!!」
「綺麗なピンク色ですっ!!!」
激痛で混乱したアッちゃんは更に島本さんの秘密を更に暴露してしまう。
「あぁ〜つぅ〜こぉ〜」
島本さんの怒りに更に油を注いでしまう。
「ひぃっ!ごめんなさいっ!」
「ごめんなさいっ!許してえっ!」
アッちゃんは島本に必死で謝るが次は寝技に持ち込まれ四の字固めが決める。
「あっ!ダメっ!」
「この格好でっ!その技はダメェーッ!」
島本さんはズボンだがアッちゃんはスカートである。
なので、アッちゃんのスカートは捲れ上がり刺繍の入ったやや透け気味の水色のパンツのお尻が丸見えである。
島本さんが更にプロレス技をかけようとすると……
「ひぃ!その技だけは勘弁してぇっ!!!」
アッちゃんは必死で許しを乞うのだが島本さんは容赦しない。
「ひいぃぃーーっ!裂けるっ!裂けるっ!」
「本当に裂けちゃうっ!!!」
プロレス技の股裂技の"レッグスプレッド"俗に言う"恥ずかし固め"がきまる。
アッちゃんはでんぐり返り状態で大股を広げてられて今度は股間が丸見えである。
パンツを履いているとは言え流石にこれは酷い……
「あの〜島本さん……」
「そのあたりで許してあげてもいいんじゃないでしょうか?」
アッちゃんのあまりの悲惨な姿に堪りかねた絵梨香が島本さんを諭す。
「仕方ないわね……」
「この辺りで許してあげるわよ……」
絵梨香に諭されてプロレス技を解くのであった。
後で絵梨香に聞いたのだがアッちゃんが島本さんにプロレス技をかけらるのはこれが初めてではないようである。
この島本さんのプロレス技はサークルの面々にも有名で数多く被害者がいるそうで……
「あれ、マジで超痛いのよね……」
「一度きまると逃げれないし……」
「股関節が外れそうになる……」
顔面蒼白でポツリと呟いた絵梨香の恐怖に歪む表情が今でも忘れられない。
どうやら、絵梨香も犠牲者の1人のようである。
これからは僕も島本さんの前で胸の話しは絶対にしない事、細心の注意を払う事にしようと心に深く刻むのであった。
何故なら、メリッサのストレッチで股裂の苦痛と恥ずかしさを十分に身を以て知っているからである。
因みに、島本さんは中学高校とレスリング部で地区大会で優勝経験のある猛者なのだそうだ……
〜 日本の夏・悲劇の夏 ② 〜
終わり




