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 僕は……  作者: イナカのネズミ
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207/207

〜 日本の夏・女装の夏 ①  〜

〜 日本の夏・女装の夏 ①  〜



 今日、午後1時にソヒョンの両親と会う予定である。


 ソヒョンの願いで僕は女装する羽目になってしまった。


 と言うわけで、アッちゃんがわざわざ着付けに来てくれている。


 「お兄さん……こっちの方がいいでるよねっ!」

 アッちゃんが鮮やかな水色のワンピースを握りしめて僕に詰め寄る。


 「和泉君にはこっちの方が絶対にいいって!」

 床に綺麗に折り畳まれた黒いキョロットスカートを指差して島本さんんが力説する。


 「え〜兄さんはこっちの方がいいって〜」

 和服をアレンジしたような奇抜な服を僕の目の前に突き出す絵梨香……


 絵梨香の微妙な服は論外として、僕にとってはどうでもいいのである。


 「それじゃ、お兄さんに実際に着てもらって決めましょう」

 アッちゃんが僕の方を指差して言うと島本さんも絵梨香も納得したように頷く。

 

 「あの〜時間が無いんだけど……」

 僕はソヒョンとの待ち合わせの時間が心配になるのだが……


 アッちゃん達3人は僕の都合などお構いなしである。

 ……と言うか本来の目的を完全に忘れている。


 「どうですっ!凄くいいじゃないですかっ!」

 「完璧ですっ!何処から見ても完璧な美少女っ!」

 自分のセレクトした服を着た僕を僕を見てアッちゃんが自信たっぷりに胸を張る。


 「……」

 島本さんも絵梨香も何も言わずに黙り込んでいる。


 "悔しいけど……完璧だわ……"

 ケチの付け所のない完璧な僕の女装姿を見て島本さんと絵梨香は心の中で悔しそうに呟く。


 「そ、それじゃ次は私の番よっ!」

 島本さんがそう言うと僕に自分のセレクトした服を着せようとする。


 「どうっ!これっ!何か文句あるっ!」

 黒のキョロットスカートに白のナイロンタイツとブラウス姿の僕を指差して島本さんが勝ち誇ったように力強く言う。


 「……」

 アッちゃんと絵梨香は何も言わずに黙り込んでいる。

 "いいっ!ハッキリ言っていいっ!"

 "中性的な美少女……薄幸の美少年……堪らんっ!"

 アッちゃんと絵梨香には心の中で無意識に叫ぶほどに反論の余地がない。


 「次は私っ、お兄ちゃんこれっ!」

 絵梨香は自分がセレクトした服を僕に突き付けるのだが……

 

 「あ……時間が……」

 僕は早くしてほしそうに言うのだが血走った絵梨香の目はそれを許してくれそうにない。


 「どうコレっ!なかなかいいでしょうっ!」

 絵梨香は僕の方を何度も何度も叩いて嬉しそうである。


 "これはこれで……いいんだけど……"

 "流石にコスプレ紛いじゃね……"

 絵梨香のセレクトしたコスプレ紛いの服に共感しつつも、どうにか当初の目的を忘れていないアッちゃんと島本さんであった。


 「それじゃ、お兄さんっ、どのコス……じゃなかった……」

 「服がお気に召しました?」

 アッちゃんは僕に鼻息を荒くして聞いてくる。


 「絵梨香の服以外ならどっちでもいいよ……」

 僕が今着ている絵梨香のコスプレ紛いの服の襟首を指で摘みながら呆れたように答える。


 「酷いっ!兄さんっ!」

 「私が一晩寝ないで悩みに悩み抜いて選んだのに……」

 絵梨香は悲しそうに言うのだが本当はネタだけで選んだのである。


 「だったら、私と島本サキさんっ!お兄さんどっちにしますっ!」

 事情を知らない人が聞いたら勘違いするようなぐらいの勢いでアッちゃんが僕に詰め寄るように尋ねてくる。

 リビングの壁にかけられた時計の針を気にしている僕の事などお構いなしである。


 「どっちでもいいよ……」

 明らかに自分の趣味丸出しでチョイスされた服だと言うことは僕にでも容易に察しがつく。


 「ジャンケンで勝った方の服にします」

 僕は諦めなように答えるとアッちゃんと島本さんのジャンケンのガチ勝負が始まる。


 「勝ったぁーーっ!!!」

 異様に気合いの入ったジャンケン3回勝負は島本さんの勝利に終わった。

 

 「うっ……うっうっ……」

 「3日徹夜で作ったコスなのに……」

 ジャンケンに負けたアッちゃんは床に四つん這いになってガチ泣きしている。

 "あの服、アッちゃんの手り?"

 "しかも、コスプレ衣装なんかいっ!"

 僕は心の中で驚きと呆れの入り乱れた複雑な気分になる。

 

 かくして僕は島本さんコーディネートによるキョロットスカート姿でソヒョン家族と待ち合わせる事になるのであった。


 僕が服を着替えるたびに島本さんが高そうなデジタルカメラで写真を撮っていたのが気がかりだったのだが協力してくれているので何も言わないことにした。


 玄関の引き戸を開けると辺りを見廻して誰もいない事を確認してから家を出る。


 夏の日差しの中、アッちゃんが用意していたワインレッドのショルダーバッグと緑色のベレー帽を被って待ち合わせの場所に向かう。

 何故か靴はいつもの白のスニーカーである。

 タイツを履いているとはいえ足元がスースーする。

 ソヒョンが指定してきたのは自宅から歩いて行ける歴史美観地区である。

 江戸時代の宿場町の佇まいをそのまま残す国内でも人気の観光地でもある。

 最近ではネットで拡散されて外国からの訪問者も爆発的に増えている。


 携帯電話の位置情報を頼りにソヒョンを探しているとそれらしき人が3人目に止まる。


 僕は緊張しながらゆっくりと近づいて行く。

 "大丈夫かな……バレないかな……"

 僕の心臓は緊張で鼓動が速くなる。

 容姿が確認できるほど距離に近付くとソヒョンと以前にPC画面で見たソヒョンの両親だと言う事がわかるのだがソヒョンは僕に全く気付かない。


 ソヒョンのすぐ近くまで近付いて声を掛ける。


 「……」

 ソヒョンは"えっ?誰?"と言う表情で僕を見ている。

 「!」

 暫くして僕だと気付いたよである。

 「カ……カネツグ……なの?」

 どうやらソヒョンは僕であると信じられないようである。


 「そうだよ、僕だよ」

 僕が返事をしてようやく僕だと認識したようである。


 「凄いわね……誰だか……」

 「マジで分からなかったわよ……」

 ソヒョンは驚きを隠せないでいる。

 "嘘でしょうっ!"

 "どこから見ても女の子にしか見えないじゃないっ!"

 ソヒョンは予想を遥かに超える僕の女装のレベルの高さに心底驚く。

 "その上……可愛いっ!マジで可愛いっ!"

 "それに……胸まであるじゃないのよ……"

 "しかも、私のより……大きい……"

 "カネツグ……ちょっとは遠慮しなさいよ……"

 ソヒョンは僕の顔と胸をマジマジと見ながら心の中で叫ぶ。

 ソヒョンは得体の知れない敗北感に暫く呆然とする。

 「……あっ!」

 「お父さん、お母さん」

 「カネツグが来てくれたわよ」

 ソヒョンは両親に僕が来た事を伝える。


 「……카네츠구 ……짱?」

 "……カネツグ……ちゃん?"

 ソヒョンの母のジミンが僕の方を見て韓国語で問いかけてくるが僕には理解できない。

 その隣にいるソヒョンの父のテヒョンも困った表情である。


 「?」

 僕が困っているとソヒョンが通約してくれる。

 「동급생의 카네츠그입니다.」

 ソヒョンが両親に僕を紹介してくれる。

 「아버지 태현, 어머니 지민입니다.」

 自分の両親も紹介してくれた。


 父のテヒョンと母のジミンが韓国語で僕に何か言っている。

 それをソヒョンが通訳してくれる。

 話の内容は前回と同じでソヒョンと仲良くしてくれて感謝している事、高価な贈り物のお礼であった。


 「そうそう、カネツグ……」

 「この辺りに鰻を食べさせてくれる店があるんでしょう」

 「私の両親がネットで見た鰻を食べたいらしいのよ……」

 どうやらソヒョンの両親は昼ご飯を鰻屋で取る予定のようである。

 SNSなどで鰻屋の事を知ったそうだ。

 

 「場所なら知ってるから……」

 「案内するよ……」

 僕は鰻屋にソヒョン達を案内するとソヒョンの父がソヒョンに何か言っている。


 「カネツグ、アンタも一緒に食べないかって」

 「私の父が言ってるんだけど……」

 「付き合ってくれる?」

 僕は少し悩んだがソヒョンの様子からここは素直を誘いに応じた方が良さそうである。


 「いいよ」

 僕が了承するとソヒョンはホッとした表情になる。

 どうやら、僕の対応は正しかったようである。


 昼時だがそれほど混んでなく、2組が待っているだけで10分程で順番が回ってくる。


 "あっ!"

 僕は鰻屋の店主とは顔見知りである事に今更ながら気付く。

 そして、僕は今女装しているのである。 

 "マズイ……これはマズイ……"

 しかし、時既に遅く店内に入ってしまっている。

 バレなことを祈るしかない。


 席に座るといつもの顔見知りの叔母さんがオーダーを取りくる。


 「カネツグのお勧めは何?」

 ソヒョンが尋ねてくるので定番の鰻重を進める。

 「それじゃ、それを4人前ね」

 ソヒョンはそう言うとメニュー表を指差して4本指で注文する。


 叔母さんも外国人の慣れているようでカタコトの英語で対応してくれる。


 鰻重が届くまでソヒョンの通訳でソヒョンの両親と話をする。

 ソヒョンの両親は向こうでのソヒョンの生活などについて尋ねてくる。


 "食事はどうしている?"とか、"授業には付いて行けているのか?"とかソヒョンの事を心配していると言うのが伝わってくる。


 僕としては素直に答えたのだが都合の悪い所はソヒョンがいいように通約している。


 最後にソヒョンの母からの質問はと言うと……

 "ソヒョンに男友達はいるの?"

であったのだがソヒョンは反射的に"男友達を女友達"と変えて僕に伝えしまう。


 僕は正直に首を縦に振ると父のテヒョンの表情が険しくなる。

 母のジミンも吃驚しているのがわかる。


 「ごめんっ!カネツグ……」

 「間違いっ!女友達じゃなくて男友達よっ!」

 焦ったソヒョンは直ぐに訂正を入れる。


 僕が笑って翻訳ミスだと伝えると父のテヒョンはホッとした表情になり母のジミンも納得したように小さく頷く。


 その時の慌てふためくソヒョンの様子が面白かった。


 食事を終えると挨拶を交わして別れる。

 以前の経験から韓国のしきたりに素直に従って食事代は誘った側のソヒョンに奢ってもらった。


 女装がバレずに無事に役目を完遂し安心して家に帰りリビングに入るとそこには父がいた。

 しかも、風呂上がりなのかパンツ1枚である。


 「……」

 僕を見て父は固まっている。

 「……あ……どちら様で……」

 呆けた表情でパンツ1枚の父が僕に尋ねてくる。


 「……僕だよ……父さん……」

 いつものように僕が返事をするのだが……


 「カ、カネツグなの……か……」

 父はパンツ1枚で呆然としている。 

 「お前……やっぱり、そう言う趣味があったのか……」

 父はこの世の終わりのような目で僕を見ている。


 「……あっ!」

 僕は女装している事に気がつく。

 "しまった!忘れてたっ!!"

 今更、気が付いても手遅れである。

 僕は今の状況にどう対応してよいのか混乱してしまう。



 「あっ!兄さんっ、お帰り」

 「コスプレのバイトお疲れ様っ!」

 リビングに入ってきた絵梨香はそう言うと僕の側に来て耳元で囁く。

 "兄さん……テキトーに話を合わせて……"

 絵梨香はそう言うとウインクをする。


 「兄さん、バイト大変だった?」

 絵梨香が僕に尋ねてくる。


 「そんなに大変じゃなかったよ」

 僕は絵梨香に話に合わせる。


 「でも……兄さん、コスプレしたまま帰ってくるなんて非常識よ」

 絵梨香は僕の姿を見て呆れたように言う。


 「着替えるの面倒だし……」

 「それに、バレずに帰れたよ」

 僕は絵梨香の話に合わせていると父は何となく状況がわかってきたようである。


 「バイト……あ、ああ……」

 「……そういえば……前にもそんな事があったな……」

 「ああ……そうか、そうか……」

 父は安心して納得したように呟くとパンツ1枚でリビングを出て行くのであった。


 父がリビングを出てドアが閉まると僕も絵梨香も大きくる息を吐く。


 「何とか誤魔化せたわね……」

 絵梨香はホッとしたように言う。


 「ありがとう、絵梨香……」

 「おかげで命拾いしたよ……」

 僕は心の底から絵梨香に感謝する。


 「兄さん、この借りはいつか返してもらうからね」

 そう言うと絵梨香はニヤリと笑う。

 

 「……絵梨香……」

 せっかくの感謝の気持ちが失せて無くなる僕であった。



 その日の夜……

 某観光地にある温泉旅館の一室ではソヒョンと両親が寛いでいる。


 「カネツグちゃん、いい娘ね」

 ソヒョンの母ジミンがソヒョンに言うと父なテヒョンも頷く。


 「少し話して感じたことだが……」

 「見かけによらず随分としっかりとした娘だ」

 「ソヒョン、良い友達ができたな……大切にしなさい」

 テヒョンはそう言うと上機嫌でテーブルの上の缶ビールを手にすると飲む。


 「それに、凄く可愛いわね……」

 「この前にパソコンの画面で見た時とは別人みたいで……」

 「母さん、初めは誰だか分からなかったわよ……」

 母のジミンはソヒョンに言うと父のソヒョンも頷く。


 「え……ええ……そうね……」

 ソヒョンは両親に嘘をついている事を心苦しく思いながらも同意する。

 "何だか……カネツグには申し訳ない事したかな……"

 "でも、これはこれで良かったのかも……"

ソヒョンは心の中でカネツグに謝るのであった。




〜 日本の夏・女装の夏 ①  〜


  終わり

 


 

 

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