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 僕は……  作者: イナカのネズミ
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〜  流れ行く日々 ドイツ編 山荘での日々 ④  〜

 〜  流れ行く日々 ドイツ編 山荘での日々 ④  〜




 山荘暮らし最終日の夜……


 「もうすぐ……お別れね……」

 オイルランプのオレンジ色の灯りの元でメリッサが小さな声で呟く。

 ストーブの中の薪が時よりパチンと弾ける。


 行き当たりばったりで訪れた何も無いドイツの片田舎にある山荘での生活は意外にも僕とメリッサにはとても良い暮らしであったのだ。


 だが、その山荘での生活も明日で終わりである。

 僕は日本に帰り、メリッサはパリへと戻る。

 いつもの生活が戻ってくるのである。


 「少しは痩せたかな?」

 僕は少し凹んだような気がするお腹を触りながらメリッサに尋ねる。


 「そうね……少しは痩せたかな」

 メリッサはそう言うとニッコリと笑う。


 メリッサの拷問のようなトレーニングが始まって1週間が経過しても挫けなかった自分を、自分でもよく頑張ったと思っている。


 「明日は早いから……早めに休もうか?」

 僕がそう言うとメリッサはニッコリと笑うので僕は安心するのだが……


 「だぁ〜めっ!」

 「カネツグはもっと頑張らないとねっ!」

 メリッサの笑顔に僕の背筋が凍る。


 「あの〜メリッサさん……」

 「明日は長距離ドライブになるんだから……」

 「お早めにお休みになられた方が……」

 僕は何とかこの場を切り抜けようとするのだが……

 メリッサに通用するはずもなく……アッサリとベッドに引きずり込まれるのであった。



 そして次の朝、僕が目を覚ます。

 山荘の外から薪を割る音は聞こえてこない、代わりにメリッサの寝息が聞こえてくる。


 僕はねメリッサを起こさないようにゆっくりと上半身を起こそうとする


 「うっ!」

 上半身を起こそうとすると同時に腰に激痛が走る。

 "こっ腰がっ……"

 僕は何とか痛みに耐えて上半身を起こして這うようにしてベッドから出る。


 素っ裸の自分の貧弱な姿が無垢材のクローゼットの扉に嵌め込まれた鏡に写る。

 "お腹……凹んだかな?"

 僕は1週間の過酷なトレーニングの成果を確認しようと鏡の前でポーズをとっていると……


 「……カネツグ、何してるの?」

 いつの間に目を覚ましたメリッサが裸のままで僕の直ぐ後ろにいる。


 「……」

 僕は鏡の前でポーズをしたまま凍り付く。

 「い、いつからいたの……」

 恥ずかしさのあまりにも顔が熱っているのが自分でもわかる。


 「……ちょうどカネツグが鏡の前でポーズを取り始めた頃からよ……」

 メリッサは笑いを堪えながら答える。


 「そっ!そのっ!これはっ!」

 僕は必死でメリッサに事情を説明しようとする。


 「そんなに焦らなくても……わかってるわよ……」

 「私も今年の冬に同じ事してたから……」

 メリッサはそう言うと僕のお腹をジッ見る。

 「そうね……1週間前よりは凹んだんじゃないかな」

 メリッサの言葉に僕は安堵する。

 実際にズボンのベルトの穴の位置は以前と同じ所になっているかりである。


 「そう言うメリッサも随分と……」

 「……引き締まったね……」

 僕がメリッサの身体を見て暫く間が空いた事にメリッサは目を細める。


 「ねぇカネツグ……」

 「今の微妙な間は何なのかなぁ〜」

 メリッサはニッコリと笑って僕に尋ねる。


 「いっ、あっ、そのっ、あのっ」

 僕はその場を取り繕取り繕おうとするが……


 「カネツグ……正直に"厳つく"なったって言ったらどう?」

 メリッサには僕の心の声が聞こえている。


 「そんなっ、"厳つい"とかじゃないよ……」

 「正直、羨ましい……」

 鏡に写る貧弱な自分の姿を見て僕が小さな声で呟く。

 僕の言葉は半分は嘘であるが半分は本当である。


 「……本当に?」

 そう言うとメリッサはホッとしたような表情になる。

 「カネツグに嫌われるかもって少し不安だったのよ……」

 メリッサがそんな事を考えいるとは思いもよらなかった僕であった。



 いつものように朝食を食べて帰り支度を始める。

 3週過ごしただけだが何故かずっと前から住んでいたような錯覚がする。


 山を降りて管理人のおじさんに鍵を返して代金を払う。

 今度は僕が宿泊費を支払ったがメリッサは不満そうである。

 3週間も宿泊したが宿泊費は日本円で18万円ほどで驚くほど安く目を疑うほどであった。

 長期間滞在割引きが適用されたようである。



 車に乗って帰路に着く、パリまで約7時間の長距離ドライブである。

 運転するメリッサへの負担の事も考えて2時間ほどの間隔で休憩を取りながらパリに向かう。

 

 僕が気を遣って途中で運転を変わろうとしてもメリッサは頑なにこれを拒否する。

 「だ、大丈夫っ!大丈夫よっ!」

 「カネツグはトレーニングでつかれてるでしょっ!」

 「私っ!たっ体力には自信があるからっ!」

 そう力説するメリッサの蒼白い顔色を見ていると僕は不安になる。


 「そう……」

 何故かわからないが僕が納得するとメリッサの蒼白い顔色は一気に健康な肌色に戻る。

 

 正直者のメリッサは露骨に表情や態度に出るのである。


 "……メリッサ……なんだか……"

 "様子が変だな……それに……"

 "僕が疲れているのはトレーニングより……"

 "夜の方なんだけどな……"

 僕は車を運転するメリッサの横顔を見ながら心の中で呟くのであった。


 車を運転するメリッサの横で僕はぼんやりと窓の外を見ている。

 車窓に流れる景色が何処となく寂しく感じられる。


 僕もメリッサも無言である。

 車の中に流れるメリッサの好きな音楽が流れている。

 何の曲なのかは僕には全くわからないがエレキギターの音であるという事だけはわかる。


 "そう言えばメリッサ、この前に高価なギターを買ってたよな……"

 以前にメリッサが下北沢の中古楽器店で買った35万円もしたギターの事を思い出す。


 太陽がやや傾き始めた頃にパリに到着する。

 ド・ゴール空港の近くの駐車場に車を停めて空港に向かう。


 僕が予約した飛行機のフライトまで後1時間くらい時間がある。


 空港近くのカフェで遅いランチを取る。

 僕もメリッサもパスタセットを注文する。

 パスタを食べながらゆっくりと話をする。


 話の内容は今年の冬の予定である。

 気の早い話だが僕とメリッサにとっては半ば生きる目的でもある。


 空港の出国ゲートの前でメリッサと別れの挨拶を交わす。


 「年末に……また……」

 僕は途中で言うのを止める。

 「時間があれば……また来るよ……」

 僕がそう言うとメリッサは小さく頷く。


 ゲートを潜り飛行機に乗り込んで座席に座る。

 機内放送が入り飛行機が動き出しエンジンの音と振動が激しくなる。

 

 上昇していく飛行機の窓からパリの街を見下ろす。

 段々とパリの街が遠のいて行く。

 

 僕は心にポッカリと大きな穴が開いたような感覚がする。


 飛行機は順調にフライトして定刻に成田空港に着陸した。


 長いフライトを終えて実家に向かう。

 見慣れたいつもの景色が所々違っているのがわかる。

 高校の3年間通った駅は既に取り壊され新しい駅の鉄骨が組み上げられ隣に仮設のホームが設置されていた。


 見慣れた景色がなくなっている事が寂しく感じられる。

 

 家に帰ると父が出迎えてくれる。

 「おお……カネツグか……」

 以前と変わらない、いつも通りの父の様子になんだか安心感を覚える僕であった。


 携帯電話にメリッサからのメールが入っている。


 「無事に帰れた?」

 たった一行のメールに僕はとても切ない気持ちになる。


 リビングに荷物を降ろすとソファーに座り僕は返信する。


 「無事に帰ったよ」

 僕も一行のメールを送信する。


 暫くするとメリッサからの着信……ビデオ通話であった。


 「メリッサ……」

 僕はメリッサの顔を見て安心する。

 メリッサも同じようである。


 その後、取り留めもない話をするのであった。


 それから数日後……

 「げっ!」

 携帯電話の請求書を見て仰天するメリッサであった……


 普段のメリッサなら絶対にしないようなミスである。


 恋は盲目とはよく言ったようなものである。

 



 〜  流れ行く日々 ドイツ編 山荘での日々 ④  〜




 終わり


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