〜 流れ行く日々 ドイツ編 山荘での日々 ③ 〜
〜 流れ行く日々 ドイツ編 山荘での日々 ③ 〜
初夏の風が山荘のある山の斜面を駈け抜ける。
暖かい日差しが窓から部屋の中に差し込んでくる。
ストーブの上で煤けたケトルがシュンシュンと蒸気を上げている。
窓の外からメリッサが薪を割る音が聞こえてくる。
僕は朝食の用意をしている。
いつもの山荘の朝である。
朝食の用意ができると窓から顔を出してメリッサに朝食の用意ができたことを伝える。
暫くするとメリッサが割った薪を抱えて入ってくる。
薪割りした後なのでメリッサはそれなりに汗をかいている。
最近では一日中、下着を付けていないので汗でシャツが素肌に張り付いて胸が透けて見えているがメリッサは全く気にしてはいない。
メリッサにとっては日常となった薪割りは確実にメリッサの身体を鍛える事になった。
袖を捲り上げたシャツから見える腕には筋肉がしっかりと付き、汗で貼り付いたシャツにはお腹の腹筋が割れているのがわかる。
見事なアスリートの体付きになってきている。
……で、僕はと言うと……
専業主夫に徹していたこともあり……
「……カネツグ……太った?」
メリッサの当然の一言に朝食を食べる僕の手がピタリと止まる。
メリッサが突然に発した一言は事実である。
この山荘に来て約2週間で僕は確実に太った。
ズボンのベルトの穴1つ分はウエストか太くなっている。
「そっ、そうかなぁ……」
僕はメリッサに突き付けられた事実から目を逸らそうとする。
「そう言うメリッサはどうなの?」
僕は苦し紛れに話題を逸らそうとする。
「あっ、私……少し体重は増えたと思うわ」
「凄くご飯が美味しいし……」
「でもね、凄く体調が良くて身体が軽いのよね……」
メリッサはそう言うと自分の二の腕を撫でるように触る……そして……
「この辺り、前はポヨポヨだったんだけど……」
「今は、引き締まって固くなってるわ」
「お腹なんかもジーパンのウエストが緩く感じるし……」
「去年、日本へ行って太った時とは違うのよね」
メリッサはそう言うと僕のお腹をジッと見る。
「……カネツグ……お腹出てきてない?」
メリッサの核心突く一言に僕の顔が引き攣る。
「……はい……太りました……」
僕は素直にメリッサに太った事を認める。
「いつ頃から気付いてたの?」
僕はメリッサに尋ねると……
「1週間ほど前からかしらね……」
「毎日、一緒に暮らしていると……」
「少しずつ太ると分かり難いみたいなんだけど……」
去年メリッサが日本に来た時に食べ過ぎて太った時には僕は全く気付がなかった。
「まっ、まぁ、その……」
「……毎晩……あの……アレでしょう」
「だから……カネツグのお腹が……」
「近頃……少し出てるきてるんじゃないかなって……」
メリッサは顔を赤くして小さな声で言う。
「……」
僕のお腹がポヨポヨになっている事にメリッサは1週間前から気付いてたのである。
「ダイエットするよ……」
僕は意を決して言うのだが……
「カネツグはダイエットよりトレーニングした方がいいわ」
「後、1週間あるからなんとかなるわ」
「私も去年、1週間でなんとかなったから……」
「朝から夜までタップリと可愛がってあ・げ・る」
メリッサはそう言うとニンマリと不気味に笑う。
「……」
僕の背筋に悪寒が走り額から冷や汗が噴き出す。
……そして、その1時間後……
「ひぃ、ひいっ、はぁ、はぁ」
僕は息も絶え絶えに死にそうな表情で山荘の周囲の山道を歩くほどほど速さ走っている。
トレッキング用に整備されているとはいえ山道なのでアップダウンがあり日頃から運動不足の僕にはかなりキツイ……。
僕の後ろにはメリッサがいて息一つ切らさずに後ろから付いて来ている。
「もうっ、もうダメっ!やすませてぇ!」
あまりの辛さに根を上げる僕……
「何言ってんの、まだ5分も経ってないわよっ!」
「辛いのは分かるけど後10分は頑張らないとダメっ!!!」
メリッサの情け容赦のない言葉が僕の後ろから聞こえてくる。
「ひっ、ひっ、ひっ、後10分っ!」
今の僕にとっては千年の時に近い。
何とか10分間やり過ごし山荘の裏手の湧き水をガブ飲みする。
"嗚呼!ただの水がんなに美味いなんて……"
僕は心の中で感動を覚えるのであったのだが……
メリッサのトレーニングはこれが序盤であったのだ……
少し休憩してようやく呼吸が落ち着くと今度は一昔前に流行った◯リーズブー◯キャンプのような体操が山荘の前の庭始まる。
知らない人も居るので説明すると10年以上前に日本国民の間で流行った無茶苦茶ハードなラジオ体操のようなものである。
それを約30分ほどする。
「ひいっ!ひぬっ!ひぬっ!」
体操開始から3分で僕は死にそうな声を上げる。
「だらしないわねっ!」
「まだ、始まったばかりよ!」
僕の目にはメリッサが海兵隊の鬼軍曹のように写る。
……それから約30分後……
僕は山荘の前の庭で仰向けになり名誉の戦死をしているのであった。
"あ〜風が心地いいなぁ〜"
空を見上げて流れる雲を見ながら何か悟りを得たように心の中で呟く。
「もう、いいカネツグ」
「次、行くわよっ!」
メリッサの一言に僕は地獄の底に蹴り落とされる。
「へっ?次っ?」
これで終わりだと思いこんでいた僕は唖然とする。
RPGゲームでようやく倒したボスの背後に更にボスがいたようなよものである。
「今度はお腹周りに効くヤツねっ!」
メリッサはそう言うと僕を片手で引き起こす。
メリッサの筋力は薪割りで確実に強化されている事を実感する。
「はいっ!身体をもう少し捻って」
「そこで暫く止まって」
メリッサの指示通りに僕は身体を捻じった状態で動きを止める。
「うっ!これっ!結構辛い……」
走ったり、飛んだり、跳ねたりするさっきまでとは違い今度は少し楽そうな気がする僕であったのだが……
それは浅はかな考えであった、それから数分後に僕は拷問に遭うことになる。
「ひんぎぃっ!ふんぐっ!」
手足をプルプルしながらもがく僕がいた。
普段しないような体勢を維持するのと言う事は普段からあまり使わない筋肉を酷使する事なのである。
要するに"エア椅子"のような体勢を維持する体操である。
仰向けに寝転んで両足を地面から数センチ上げその状態で静止したりするのである。
「へげぇ!もうダメぇ〜」
すぐに力尽きる僕を見てメリッサは呆れ顔である。
「10秒も持たないなんて……」
「こんなんじゃ、老後は足腰が弱って車椅子生活よ」
メリッサの言っている事には一理あると思ってしまう僕であった。
"おっ、終わったぁ〜"
僕は開放感に打ち震える。
「お疲れ様でした……」
「続きは午後からね」
メリッサの一言に僕は再び天国から地獄に突き落とされる。
軽い昼食を食べて暫くしてから再びメリッサの軍隊式トレーニングが始まる。
午前と同じようにヒィヒィ言いながらも何とか凌ぎ切る僕であったのだが……
トレーニングの後でサウナで汗を流して呆けているとメリッサが隣に黙って座る。
「お疲れ様でした……」
「よく頑張ったわね……」
「夕食は私が作るわね」
メリッサはそう言うとニッコリと笑った。
メリッサが夕食に作ってくれたのはノルマンディー 地方の家庭料理だった。
鶏肉とリンゴを煮込んだ料理である。
それにポテトを蒸した物が添えられている。
「材料が手に入らないのもあって……」
「少し味が違うんだけど……」
メリッサは自信なさそうであったが僕にはとても美味かった。
空腹だった事もあるだろうが、普段から料理を作って出す方なので人が作ってくれた料理をそんなに食べる事が無かったからでもある。
「ありがとう……メリッサ……」
「美味しいかったよ……」
僕が心からのありがとうの言葉にメリッサは少し照れ臭そうである。
「それじゃ、夜の方も大丈夫ね
っ!」
ビールを飲みながら少し頬を赤くしてそう言うとニヤリとする。
「ひっ!」
僕の背筋にシベリアの寒風が吹き抜ける。
そして……
恒例のメリッサのストレッチ体操で散々に痛ぶられた後で更に、足腰立たなくなるまでたっぷりと可愛がられるのであった……。
この山荘で暮らすようになって3週間でメリッサは更にパワー・アップした事を実感している僕である。
〜 流れ行く日々 ドイツ編 山荘での日々 ③ 〜
終わり




