〜 流れ行く日々 ドイツ編 山荘での日々 ② 〜
〜 流れ行く日々 ドイツ編 山荘での日々 ② 〜
「う……あ……もう、朝か……」
僕が目を覚ました時にはメリッサは隣にいなかった。
この山荘で暮らすようになってもう10日程が過ぎている。
「ん……」
外から何か音が聞こえてくる。
僕は耳を澄ませる、どうやらメリッサが朝から薪割りをしているようである。
僕はベッドから出るとシャツに袖を通しズボンを穿く。
ストーブには既に火が入っている。
朝からメリッサが火を入れてくれたのである。
フライパンで厚切りのベーコンを焼く、その後に卵を2つ割り目玉焼きを作る。
リンゴの皮を剥き四つ切りにする。
大きな丸いライ麦パンをナイフで厚く切り軽く焼く、ケトルのお湯が沸くとコーヒーを淹れる、メリッサはブラック、僕は砂糖とミルクを入れる。
朝食の用意ができると外で薪割りているメリッサを呼ぶ。
暫くすると薪割りで額に汗をかいたメリッサが薪を抱えて入ってくる。
メリッサは山小屋の裏の湧き水で顔を洗ってから朝食を食べる。
毎朝、こうして山小屋の1日が始まるのである。
山小屋で生活するようになってからメリッサはとても健康的になったと思う。
朝は僕よりも早く起きて薪割りなどをしてくれる。
以前のメリッサからは想像もできない。
何だか顔付きも前より凛々しくなったように見える。
毎日のように薪割りをしているためが体付きも引き締まり以前にも増してプロポーションが良くなっている。
そして、夜の方もよりパワフルになってしまった。
朝食を食べてからは自由時間である。
お互いにすべき事をする。
メリッサはパソコンで法律の勉強を熱心的にしているのがわかる。
初めて会った時に言っていたように将来的に法律関係の職業に就くためである。
メリッサ云く……
「モデルなんて……」
「いつまでも出来る仕事じゃないでしょう」
「人生、長いんだからしっかりと稼げる仕事に就かないとね」
確かにメリッサの言う通りである。
「カネツグは将来、どんな仕事がしたいの?」
メリッサの問いかけに僕は明確に答える事ができなかった。
恥ずかしい話なのだが、就職の事など考えていなかった。
既にそれなりの資産があり経済的な不安要素が無くなった事が間違いなく最大の原因の一つである。
「仕事か……」
今頃になって、将来の事を考え始める僕であった。
というよりそんな余裕など無かったというのが正しい。
そんな将来に明確なビジョンがない僕であるが、来季の大学の受講内容と研究テーマを練っている。
ただ、僕の場合はそれ以外にペイジ氏との契約にある新型セキュリティの改善とシェリル達とのプロジェクト管理も加わる事になる。
シェリル達とのプロジェクトで目下最大の問題はペイジ氏との契約に関する問題である。
これはかなり頭の痛い問題である。
AIプロジェクト自体にはあまり関係ない問題なのだがプロジェクト管理と言う点では最大の問題である。
話し変わるが、この山荘で生活するようになってから急にアイデアが思い浮かんだりする事が時折ある。
この自然環境が僕の脳に良い影響を与えていることは間違いないという事を実感するのであった。
今は、書き留めておいたアイデアの再検証をしている。
幾つかのアイデアは既に応用する目処が立っている。
「カネツグ、久しぶりに遠出しない?」
パソコンのキーボードを叩きながらメリッサが僕に尋ねてくる。
「遠出?何処か当てがあるの?」
僕かメリッサに尋ねる。
「そんなの無いわよ」
「少しこの辺りを適当に車で走るだけよ」
メリッサはそう言うとパソコンの電源を切る。
「ああ、そう言う事だね」
何となくメリッサの言いたい事がわかる。
僕もパソコンの電源を切る。
出かける用意をすると山荘のドアの鍵をかける。
僕はグレーのジーパンにベージュの長袖シャツ、足元は茶色のスニーカーである。
メリッサはと言うと……
やや薄汚れた白のシャツに所々インディゴブルーの剥げたジーパンに踵の部分が縒れて草臥れた白のスニーカーである。
まるで農作業着のようである。
「……メリッサ……」
僕はメリッサのあまりの酷さに思わず呆然となる。
「どうしたの?カネツグ?」
「そんな顔して?」
悲惨な自分の姿をメリッサは何とも思っていない。
"そう言えば、メリッサってこういうセンスだったんだよな……"
美人でスタイルが良いだけに残念で仕方が無いがコレも個性だと思うようになっている僕である。
山を降りて車に乗って走り始める。
「カネツグ、この辺りの土地勘はあるの?」
車を運転しながらメリッサは僕に尋ねてくる。
「この辺りは土地勘はあまり無いよ……」
「小さい頃に1度、来たくらいかなぁ……」
僕は自信なさそうに答える。
「そうよね……適当に走ってみるか……」
メリッサはそう言うと車のアクセルを少し踏み込む。
田舎道で車の数も少なく対向車も殆ど来ない。
カルと言う街を通り越してメッヒャーニッヒと言う街に入る。
「この辺りにミュージアムがあるみたいだよ」
携帯電話で地図を見ていた僕が呟く。
「行ってみる?」
メリッサの言葉に僕は黙って頷く。
幹線道路を外れて携帯電話のナビ通りに進んでいくと看板が見える。
"Kommern Open AirMuseum"とある。
「Air Museum?」
「こんな所に航空機の博物館があるんだ……」
僕が不思議そうに呟くと大きな駐車場が見えてくる。
どうやら、博物館の駐車場のようである。
駐車場を見渡すと停められている車の数はそんなに多くはなさそうである。
車を停めて入場券を購入する。
入場料は大人1人11€である。
入場した後で気付いた事なのだがメリッサは11€なのに、何故か僕は7.5€であった。
どうやら学生と勘違いされたようである。
少し心が傷付いている僕の様子を見てメリッサは笑いを堪えている。
看板には"Kommern Open Air Museum"とあったので僕は航空機の博物館だと思っていたがこの場合の"Air Museum"は野外博物館であった。
ドイツの伝統的な村をそのまま保存しているドイツ版の白川郷のような博物館である。
野外展示の規模はかなり大きく各時代の建物がやなり良い状態で保存されている。
散策路は綺麗に整備されて殆どの展示家屋に入場する事ができた。
大規模な展示館があり第二次大戦終結の1945年までの各時代の色んな物が展示されてた。
ドイツでは第二次世界大戦終結迄を1つの歴史の区切りとしているからである。
ドイツの主な観光地からは少し離れているのでそんなに人は多くなくメリッサとのんびりと散策する事ができた。
レストランで食事をしたがメリッサがオーダーしたポテトは塩辛過ぎたようである。
こんな所まで昔のドイツの味を再現しているのかと感心した僕である。
休憩所のベンチに座ってメリッサと話をしているとメリッサは法律学校の事を話してくれた。
「出来れば弁護士になりたいんだけど……」
「凄く時間かかるのよね……」
そう言うとメリッサは深いため息を吐く。
メリッサの話だと、フランスで弁護士になるには、大学(法学部)で4年以上学んで司法試験を受験し合格後に弁護士養成学校、通称(CRFPA)で18か月の実務研修を終えなければならず最短でも6年近くかかるそうである。
しかも、司法試験は一生で3回しか受験できない言うリミッター付きである。
まるで、携帯電話やATMのパスワードと同じである。
弁護士の資格収得はフランスに限らず日本でもかなりの難関である。
結論を言えば、メリッサはモデルをしながら苦労して最終的に弁護士の資格を収得する事になる。
その結末、1人でもしっかり稼いで生きていける働く女性になるのである。
母のハンナ、妹の絵梨香、長澤さんや涼音さんを始め、何故か僕の周りの女性たちはしっかりと人並み以上に稼げる人が多い。
帰りの車の中でメリッサがポツリと呟いた一言が今でも記憶に残っている。
「このまま時間が止まってしまえばいいのにね……」
山荘へと続くドイツの田舎道を走りながら僕もメリッサも同じ事を考えていたのだと……
しかし、別れの時は近づきつつある。
後、10日で僕とメリッサはまた離れ離れになる。
◯ラもんの"どこで◯ドア"が欲しいと心から思う僕であった。
〜 流れ行く日々 ドイツ編 山荘での日々 ② 〜
終わり




