こんな記憶はない
チートな記憶力を持つ僕だが頭の中は混乱していた。
「先輩無事でしたか!目が覚めたら先輩の姿は見えないし、一緒に落ちてわたしだけ天国に来ちゃったかと思いましたよ。アハハ!」
「……笑えない冗談だな」
……どうしてこうなった?
小悪魔に電話で助けを求められ急いで合流した。
そして、不安は見事的中した。
僕が過去に戻ってしまった推測は間違っていないようだ。
だが……
「なんでお前まで過去の記憶が残ってるんだよ?」
「よくぞ聞いてくださいました!それは愛の力です!」
「はぁ……」
大きな胸をこれでもかと誇張する小悪魔に溜め息しか出てこない。
こんな状況でなければ僕も一応男だから誘惑されたかもしれないが。
「先輩こそーそのエッチなチート能力で覚えてるのはさすがですね」
「完全記憶能力だっての。だが記憶している過去に戻るとは予想外だがな」
そう、まさかとは思ったが、僕だけでなく小悪魔もまた過去の記憶を持っていたのだ。
さすがに同じ能力を持っている訳ではないので大まかにしか覚えていないらしいが。
「それで……何から助ければいいんだ?俺の記憶だと脅迫してきた浩一か?」
「違いますよ。すでに先輩にはすべてを告白してますから今更脅されても怖くありません。ただ……」
「ただ……なんだよ?こっちまで緊張するだろ……」
ゴクリ!?
大きく唾を飲み込むと、意を決したのか真っ直ぐにこちらを見てこう言った。
「過去に戻ったはずなのに胸が大きくなってるみたいなんです!あの時着けてたはずのブラのサイズが合わないんです!小さくてキツイんです!はち切れそうーーーイタッ!?いきなり人の頭に何するんですか!」
「チョップだな」
「恐ろしいくらい冷めた眼で冷静に答えないでください!」
このタイミングで冗談を言ったお前が悪いんだろ。
過去に戻って胸の大きさが変わるなんて冗談を……冗談だよな?
ま、まさかな……
「それで?他にも何かあるんだろ?」
なるべく不審に思われないよう話を進める。
あの双璧は、一瞬でも気を抜くと魂ごと持っていかれるのだ。
「てっきり過去に戻ったと思っていたんですけど、前回ともちょっと違うみたいなんです」
「はっ!?また冗談を言うつもり……でもなさそうだな」
僕も思い当たる節がいくつかある。
本来、入院中に千花へ連絡がつくはずがないのだ。
そして……
ネットをいくら検索しても、スキャンダルなど微塵も出てこない。
浩一がSNSに投稿していないのだろうか?
「特に違う点はわかるか?」
「大沢のデブが……ブタが、真面目にクラスで授業を受けてます」
「……」
……ありえない。
都内でも有名な進学校の授業に、アイツがついてこれるはずがない。
「他には?」
「太ってません」
「嘘だろ?」
僕の問いかけに対し、ため息まじりに首を横にふる小悪魔。
それが本当なら、デブでもブタでもない。
「事実です。しかも真面目だとか」
「えっ!?そ、そうなのか。じゃあなんで僕に助けを求めた?」
「生徒会が……」
突然、泣きそうな表情をする小悪魔。
「大沢(兄)に牛耳られてます」
「白鳥さんはどうしたんだよ?あの頃はたしか副会長やってるはずだろ」
「わたしも白鳥先輩はどうしたのか調べてみましたが、生徒会役員ですらありませんでした」
「ありえないな」
僕と出会うまで生徒会活動にすべてを注ぎ込んできたエリカがいない!?
いったい何がどうなってる?
それだけでも驚きなのだが小悪魔の話はまだ終わりではなかった。
「その代わりと言ってはなんですが……」
言いづらそうに体の前でモジモジする小悪魔。
「この悪い流れの中だ。何を聞いても驚かない言ってくれ」
「……そうですか。実は現在の生徒会副会長は千花先輩です」
「えっ!?嘘だろ?」
「めっちゃビックリしてるじゃないですか!」
「わ、悪い」
予想の遥か上をいく展開に、ラノベ作家の僕もさすがに驚いた。
大沢(兄)が生徒会長で千花が副会長と聞けば当然だ。
あの二人に接点などなかったはずだが。
病院から連絡した時も体の心配はされたものの、千花に不自然な点は見受けられなかった。
「ひとまず千花と白鳥さんに真相を確かめよう」
「はい!」
今回もなかなかどうして。
大変な事に巻き込まれてしまったようだ。
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