無自覚ハーレム野郎の記憶がない
「ところでこのケーキどうやって持ってきたの?」
「もちろんセバスチャンに頼んで持ってきてもらいました」
「それって白鳥さんに仕えている執事さん?」
「はい。そうですわ」
……いやいやいや。
セバスチャンなんて名前初耳ですがいったい誰ですか!?
「エリカ先輩は本当にこれがバレンタインのチョコレートだったんですね」
「もちろんです。皆さんに食べていただこうと思いまして」
「え?メモリーへのバレンタインじゃないの?」
「もちろんメモリー様には一番多く食べていただきますが、日頃から仲良くしていただいてる皆さんにも是非食べていただくて。それに白鳥家の人間として引き際も大事ですから」
「えっ?」
意味ありげな表情で僕と、そしてみんなを見る白鳥さんの目は真っ赤だ。
よく見ると目の下には隈もある。
「それは私も同感だね。メモリーとは姉弟の関係としてこれからもずっと支えていこうと思ってる。まずは盃をかわすところからか」
「えっ?」
ナツ姉もスッキリした顔で僕にウイスキーボンボンを渡して笑顔で頭を撫でてきた。
ああ……二人は僕を悪者に仕立てない為に自ら辛い選択をしたのだ。
こんなに素晴らしい女性に気を遣われるなんて一人の男として情けない。
「なんだよメモリー、しけた面しちゃって。そんな事じゃ女子にモテなくなるぞ?」
「そうですよ。あくまでも今の時点では友人とメモリー様のお気持ちを優先しただけなのでお気になさらず」
「ナツ姉……白鳥さん……」
小説でも書いたりするけど恋愛ってのは時には非情なものだ。
誰かを好きになってもそれが必ず成就するわけではない。
しかしどこかの外国人が『人を好きになった数だけ人は幸せになれる』なんても言っていた。
結局、幸せかどうかを決めるのは自分であり、ひとりでは出来るものではないのかもしれない。
「それじゃあケーキはメモリー様のおうちに運んでおきますね。お母さまには連絡済ですので」
「えっ?えええ?いつの間に母さんと連絡取るような仲になってるの?」
「ひ・み・つ・です。それでは後ほど皆さんで食べましょう。先に行ってお邪魔してますね。友人としてうふふ」
僕等はまだ高校生。
母さんと仲良くなってるということは、恋愛の先にあるカップルの終着点は諦めていないのか?
そして白鳥さんとナツ姉は足早に体育館を去っていった。
まったく想像していなかった展開に僕を含めて千花も小悪魔も明らかに困惑している。
僕だってそうだ。
あの二人は僕が不甲斐ないばかりに……
「僕が優柔不断なばかりに、こんな事になってしまって本当に悪い」
「今頃気付いたの?遅かれ早かれこうなると二人も覚悟してたのよ」
「おっそ!先輩おっそ!でも……残酷なことを相手に告げられないのが先輩の優しさですよ」
そんな風に慰められるとさらに情けない気持ちになる。
「それじゃあ、お邪魔虫のわたくしもそろそろ退散させてもらおうかと―――」
「なに言ってるの?お互い悔いのないようきちんと今の気持ちを伝えようって決めたでしょ?」
「でも、もう答えは出てるじゃないですか。この間の事件の時に先輩は『千花は僕と結婚するんだから』ってプロポーズしてましたよね?」
たしかにあの時僕はブタに向かってああ言った。
だけどそれは―――
「ああ、あれね。あれはわたしに向けた言葉じゃなかったのよ。大沢に揺さぶりをかけて自白を引き出すための餌を撒いただけのこと。潜入する打ち合わせをした時からその手筈だったの」
「仮にそうだとしても千花先輩はメモリー先輩と付き合っていたわけだし、元親友に脅されていただけで裏切ってもいないから元さやに収まるのが普通ですよね」
「それを決めるのはあなたじゃない。最後はメモリーの気持ち次第なのよ。ねえ?メモリー」
「千花……」
ここまでみんながお膳立てをしてくれたのに、自分の気持ちから逃げる事なんてもはやできない。
そして今の僕は失っていた心を取り戻しているのだから。
僕は俯き加減だった顔をあげて二人の顔を交互に見る。
【小松千花】幼馴染でいつでも僕のことを最優先に考えてくれる元カノ。嘘をついてまで別れて僕を守ろうと……
【白石あかり】いつでもウザ絡みしてくる小悪魔。最初のイメージはあまり良くないが実はあれだって……
この静まり返った状況で緊張しないわけがない。
ふたりの顔は血の気が引いて青ざめ、手や肩は小刻みに震えていた。
「ふたりともそんな顔をしないでくれ。せっかくの美少女顔が台無しだぞ」
「はっ、はぁ?」
「ふぇっ!?」
なにかおかしなことを言っただろうか?
学園三大美少女のうち二人に対して言っただけなんだが。
ちなみにもう一人は白鳥さんだけど。
「なにいまさら胡麻擦ってるのよ!全然嬉しくないんだから!」
「そうですよ!これだから無自覚ハーレム野郎は困るんです!」
「その割にふたりとも顔が真っ赤だぞ?」
「「そんな事ないですー!!」」
あれほど気が合わないと思っていたふたりが姉妹のように振る舞う姿を見て心が温かくなる。
……ん?引っ張りすぎか?
「とにかくチョコレートをもらえると嬉しいんだが?」
ぼっち、陰キャ小説家の僕がこんな台詞を吐くようになるとはな。
人は日々成長するらしい。
そして気持ちや心も……
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