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マンションの記憶がない

「では昨日の夜から連絡が取れないんですね」


「そうなの……。小腹が空いたとかでコンビニにポテチを買いに行ってそのまま……」


 千花のお母さんが悲痛な表情でへたり込んでいる。


 早朝からインターホンが鳴り響き僕の部屋を訪れていたのだ。

 

「てっきりメモちゃんのところに転がりこんでいると思ったのが間違いだったわ……」


「……」


 言いたいことはたくさんあるけど……今じゃない。

 きっと千花は大沢に攫われたのだ。

 

 オーディションの結果が出るまで待ったのが間違いだった。

 わずか2日で行動を起こしてくるとは予想外でもあった。

 しかしこちらも囮になっているので最初から危険は承知の上。その対策も当然してある。


 相談もなしに作戦を決行したお詫びと僕の能力を含めて事情を説明した。


「すると……わたしと一緒に入ったお風呂の記憶も鮮明に残っている……と?」


「……まあそうなりますね」 


 そっちの心配かよ!


 訝しげな顔でこちらの表情を伺ってくる。

 娘と同様の反応をするとは……この人は間違いなく千花の母親だ。


「キャー!メモちゃんのえっち!着実に大人の階段を登っているわね。ママも嬉しいわ」


「今はそれどころではないでしょう……」


 母親代わりであるのは認めるけど娘が拉致された可能性があるのだ。ふざけている場合ではない。


「そうだったわね。ごめんなさい。でもメモちゃんのことだから想定内なんでしょ?たしかに心配だけどあなた達を信じてるから任せるわ。手伝えることがあればいつでも頼りにしてちょうだい」


 娘が誘拐されたかもしれないのに簡単に許してもらえた。

 ほんとに大丈夫かよこの人は……

 しかしのんびり構えているわけにもいかない。

 今だってどんな仕打ちを受けているのかわからないのだから……


 僕は急いで白鳥泰造さんへと連絡するのだった。


 * * * *


『目守くんのところへ転がりこんでるわけではないのだね』


『違いますが……』


 電話をするなりさも当たり前のように疑う泰造さん。

 どうして僕の周りにはこんな大人しかいないんだ!?


『勘違いさせてしまったようだね。君を疑ってるわけじゃないんだよ。昨夜から発信機の信号がそこから出ていると報告があったのでわたしはてっきり……』


『……てっきり?』

 

『いや、すまない。現在も信号はそのマンションから発信されている』


 これはいったいどういうことだ?

 その後詳しく話を聞くとGPSの信号は夜中にコンビニへと向かいその後はこのマンションで止まっているそうだ。

 もしかしたら……


『ちょっと調べていただきたいことが―――』


 一つの可能性を見出し急いでその旨を伝える。

 

『わかった。すぐに調べさせよう』


 時計の針はすでに6時を回っていた。



 * * * *



 早朝にもかかわらず僕の秘密を知るメンバーがすぐに集まりマンションのリビングで報告を待っていた。

 すると来客を伝えるインターホンの音が室内に鳴り響く。

 どうやら白鳥泰造さんとその部下が直接来てくれたようだ。


「君の推測通りだったよ」


「やっぱりそうでしたか……」


 到着早々に会話を始めたものの、まだ内容を聞かされず状況を飲み込めない小悪魔が不満気な顔を浮かべている。


「ちょっとお二人さん私たちにもちゃんと説明してください!千花先輩は私たちにとっても【メモリー同盟】の大事なメンバーなんですから!」


「おい!なんだその怪しげなグループは?初耳だぞ」


 てっきり生徒会のことを指しているのかと思ったが、個人名がついている時点できっと違うだろう。

 最近やたらとこそこそ女子だけで話をしていたと思ったら……


「そ、それは……いまは関係ありません!それで何が推測通りだったか教えてください」


 目が右往左往する小悪魔だったが、いまはそれを突っ込んでいる場合ではない。

 一刻も早く千花のいる場所を特定し救出しなくてはいけないのだ。


 僕が白鳥泰造さんにお願いしたのは2点。


 1つ目は、GPS信号がいま現在も発信されているのかどうか。

 最後に信号を確認できた場所がここなのか、それともマンションから今現在も信号が確認できるのかどうかだ。

 出来れば後者をお願いしたいものだ。

 もし最後に確認できたとなると、相手に発信機の存在がばれていることになる。

 そうなると当然発信機は壊され警戒されて尻尾を掴むことが困難になってしまう。


「見てみたまえ。この赤く点滅している地点はいまもこのマンションを指している」


 白鳥泰造さんが連れてきた部下が指示に従いパソコンの画面を開くと、たしかにそこには赤い点滅が表示されている。

 聞けばどうやらリアルタイムの情報らしい。


「ちょっと待ってください!それでは千花ちゃんはここにいるって事ですか?まさかメモリーが監禁して縛って……」


「違うから!そんなこと絶対にしないから!」


 暴走しそうになるナツ姉の脳内を疑いつつしっかりと否定しておく。

 横では白鳥さんが「スリルがあってそれもありかも……」とお嬢様らしからぬ呟きが聞こえてきた。

 これは恐らく小悪魔の影響だろう。


「そ、それでもう一つの方は?」


「う、うむ。このマンションを管理しているのは大沢財閥だ。どうやら数年前に大規模な地上げを行い強引にこの土地を取得したらしい。目守君がおじいさんと暮らしていたアパートもちょうどこの辺りだったそうだね」


「はい……」


 なんてことだ。

 父や母だけでなく千花もさらわれて……

 思い出の場所も大沢に奪われていたとは。

 皮肉な事にその恨むべき相手からこのマンションを買ってしまった。

 全てが落ち着いたらた頭を整理しよう。


「そしてこのマンションには大沢の息のかかった会社が多数入っている。もちろんグループ会社だと大っぴらには公表されていない。きっとそこのどこかに研究施設があるに違いない」


「まさか……そこには千花だけでなく、僕の両親も……」


「その可能性は十分にあるだろう」


 泰造さんから聞いた言葉が頭から離れない。


 完全記憶能力を使わなくても僕の頭には何度も何度も繰り返されていた。


 

読んでいただきありがとうございます!


年度末で仕事が忙しく更新が遅れて申し訳ありません。

他の作品も含めて投稿を続けていきますので、「ブックマークと評価☆」をよろしくお願いします。

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