第二話 俺氏、安全に生きたい①
女性に贈るものは何がいいか? この命題に挑んだ男性は星の数ほどいるだろう。
花束? 美しくも儚い花は人の心を魅了し、安らぎもまた与えるだろう。
甘味? 甘さは全世界共通の娯楽であり、女性は男性よりも糖を欲する生き物だ。
手作りの品? 人がオーダーメイドに高級感を感じるのは、只一人の為、己の為にしつらえたものであるからだ。世界に一つ、それこそが手作りの一品なのだ。
そして外せないもう一つの贈り物。それは――
「はい無理無理無理無理」
成穂さんと並んでショーケースに並ぶ品を眺める。
色取り取りの宝石が、銀や金、プラチナなどを着飾って輝いている。
しかしそんな物より俺はあるモノに首ったけだった。
値札である。
「なんだこれ。こんな小さい石なのにどんだけ数字が並んでいるんだ……」
これは駄目だ、俺はこの店に入っては行けなかった。あの時もう少し成穂さんの進む先に気づいていれば……。
いや今からでも遅くな――
「何をお探しですか?」
ああ、しまった遅かった。
「いや冷やかしに来ただけなんで」
「可愛い彼女さんですね。今日はプレゼントをされるのですか?」
「いや~そんな彼女なんて、ねえ?」
この店員さん見る目があるなあ。やっぱり恋人同士に見えるよね。援助交際なんかじゃないよね。
「ほんとうにかわいいかのじょさんで……ほんとうに、ええほんとうに」
んん?
「ほんとうにかわいらしいずっとみていたいそばにいたいひとつになりたい――」
いかん。成穂さんの美貌に当て
られたようだ。
しかしこれはまだ軽微なほうである。症状は強烈な追っかけになるくらいだ。
「成穂さん、なんとかして」
「一時的な精神防御幕を彼女に展開します」
そう言うと店員さんはハッと我に返ると、何度か瞬きすると成穂さんから視線を外した。
どうやら正気に戻った様子。久しぶりに遠出をしたせいで、成穂さん対策が疎かになっていたようだ。
ちなみに対策とは、成穂さんを人に近づかせないことである。今は街のど真ん中だからそれも難しい。
「それではこの中で一番女性に受ける形状をしているこれを」
「この商品ですか。流石お客様、その可愛さに見合った審美眼ですね」
俺がそんなことを考えている間に商談を進めるのは止めて下さい。
「ちょっと待て待て、それ幾らするの……って丸の数が多くて数えらんない」
成穂さんの指した宝石はなるほど、店の一番いい場所の一番厳重なケースに入った、それはもうお高いでしょうと言える大きな宝石の嵌ったネックレスだった。
ダイヤモンドだろう小粒の宝石がこれでもかと埋め込まれたプラチナだろう飾り。そして中央にはそれは本命を飾り立てるだけの小物だと言わんばかりの大きな赤い宝石が中央に鎮座していた。
こんなものいったいどうゆう人物がどうゆう場面で首に掛けるのだろうか。
「この店で最も効果の高い品です」
「流石お目が高いですね。その通りです、これだけ素晴らしいネックレスがあるのは、この辺では当店だけですから」
この店員さんも買えるなどと思ってはいないだろう。おそらく自慢したいだけなのだ。
自分が褒められたかのように嬉しそうにニコニコしている。可愛い。
「どうですかお客様。彼女へのプレゼントにこれなど……」
「いやいやいや買えないから、これ持って行ったら結婚の告白だと間違われるから、というかドン引かれるから、欲しいのは仲直りの品だから!」
「人とは単純な組成であるというのに複雑なのですね」
成穂さんはしたり顔(無表情)で言うが、こっちも分かってやっているだろうから質が悪い。可愛い。
くそう。買い物デートで成穂さんと親密になるという予定が上手くいかない。
そもそも宇宙人が喜ぶ物ってなんなのだ。
「宇宙人ではありません機動艦です」
「オイルでも買うか?」
「私は潤滑剤を必要としません」
とほほ……これは手詰まりだぞ。




