第二話 俺氏、安全に生きたい②
「それならこれで良いでしょうか」
頭を抱えて店の隅に居た俺に、成穂さんはそう唐突に手を差し出した。
その手には……。
「え、あれ? どうして? 何時の間に……ておいおいお?」
その手には先程覗いていた装飾された赤い宝石の嵌ったネックレスが握られていた。
俺は落ち着いて、嘘です、慌てて先程のショーケースを確認する。
あのこの店一高いやつが入っていたショーケースだ。
「ある」
そこには確かに先程と同じようにあのネックレスが飾られていた。
ならば今成穂さんが持っているこのネックレスは……。
「複製しました」
「うぉーーーい‼」
「そうされましたかお客様?」
「いやいやいやいやいやっやななななんでもないっす!」
俺は素早く成穂さんを、あのネックレスを持った成穂さんを背中に隠す。
「そうですか? それではまた御用がおありでしたら声をお掛け下さいね」
店員さんはそう言うと他の客の接客に戻っていく。どうやら見つからずに済んだようだ。
「ふーー……成穂さん。いや成穂君」
「何でしょうか」
「駄目でしょうそういうことしちゃあ、めっ」
「盗んではいません」
「盗んでなくても駄目です。あそうだ、盗んでるからデザインとか」
「なるほど」
うんなるほど。機転を利かせたいい説教だぞ俺。
「それでは返しましょう」
「そうそう盗んだ物は返さないと……ってちがーう!」
くそう、これが策士策に溺れるというやつか。
成穂さんは既に店員の前であのネックレスを渡していた。
渡された方はショーケースに入った実物と手元にある複製品を交互に見て困惑している。
「え、あれ、あれ。え、あれ?」
ってな感じだ。
どうしよう。また記憶操作で無かったことにしてしまおうか。いやしかし。
そのうち俺と俺以外の人の記憶が全く違う世界になりそうで怖い。
「主」
「んえ?」
「話を聞かせてくれと店の奥へ誘導されています。それとこれは返さなくていいと言われました」
その手にはネックレスが握られている。どうやら店員側も対処に困ったようだ。
しかし、ああ、やっぱりそうなるよな。これはもう警察を呼ばれている可能性があるぞ。
もうどうにでもなれだ。
「主は今問題が生じていると考えているのですね」
「え、まあそりゃあ……」
他の客も事態に気づきざわつく中、何時もの冷静な声に少し落ち着く。
騒動に慣れたつもりだったけれど、こうも日常に近いと成穂さんの異常性が際立って、焦りが生まれていたようだ。
その問題の当事者である美しい少女を眺める。そう云えば今日の成穂さんは随分と饒舌な気がするな。これももしかしてデート効果か⁉
「それではお客様、どうぞこちらへ……」
そんなこと考えている場合ではない。このままでは前科一犯になってしまうのだった。
「いやそのそのネックレスはこの子の私物で――」
「その話も是非奥でお願いします」
駄目だ。信じてくれそうもない。
ああくそぅ……このまま異世界にでも逃げ込みたい気分だ。
その瞬間。
「あ」
俺は森の中に居た。




