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安アパートと宇宙船  作者: 世も据え置き
第六章 宇宙船はデートしたい
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第一話  俺氏、好感度が落ちる

「あーほんとどうしよ」

 何時もの様に成穂さんに愚痴を呟く、平日の午後。

 ここは俺が働いているアダルトショップ。名前は知らない。

 ちなみに俺は主人公。名前はまだない。

 

「そうですね」

 絶対話を聞いていないだろう返答トップテンに入りそうな相槌を打つこの美少女は成穂さん。

 世間では全く似ていない俺の親戚で通っているが、実は彼女は宇宙船で宇宙人なのだ。

「機動艦です」

 更にさらっと俺の心を読めるのだ。

 

「いやでもあの件は成穂さんが幾分か悪いでしょう? まさか姿だけが変わって、それ以外が全く変わらないなんてさぁ」

「全く変わらないわけではありません。認識を少しずらすことで、女性の姿をしている者は参加資格を有するようにしていました」

 むむむ、この宇宙人め。ああ言えばこう言う技を覚えよって。

 

「分かった俺の負けです」

 道理の通じぬ摩訶不思議空間に対して、一般人である俺の言い分など通用する筈もないのだ。

「というわけで、なんとかしてください」

「何をですか」

「好感度を上げるんだよ」

「……」

 おおっと、ここで成穂さん沈黙。

「……好感度とはなんですか?」

 そうきたかー。

 

 好感度。ゲーム用語だった時から今日まで、一般に使われるくらいにまで市民権を得た言葉。

 しかしそれは宇宙人にまで浸透していなかった。いや成穂さんのことだ、理解はしているのだろう。しかし言葉とは、心が応えない限り、真の意味で理解したとは言い難いのだ。

 つまり。

「成穂さんが俺に抱く、あったかい気持ちの量だよ」

「意味が解りません」

「はい簡潔」

 心が応えない限り……いや俺は嫌われていないはず……。

 

 *

 

「好意というものは測れるものなのですね」

「いやどうだろう。でも『思いが溢れちゃう~』とか言うから、キャパがあるとは思うんだよね」

「溢れるとどうなるんですか?」

「いや行動に移すんじゃないかな」

「どのような行動にでるのですか」

「そりゃあ……言えないようなこと?」

「生殖行為が何故言えないのですか」

「そ、そんなことばっかじゃないし! もっと情緒的なステップがあるし!」


 俺は小一時間、好きというものについて成穂さんに説明していたが、少し、いやかなり追い詰められていた。

「いいから! とにかく下がった好感度を元に戻す妙案を考えてくれい。成穂さんだって女の子だろ」

「好感度が下がると不利益があるのですね」

「最近いい感じだったんだよ。ご近所の怪しい人物から、小粋なお兄さんまでいってたんだ。でもあの女子会からすれ違っても無視されるように……ああーつらい」

「女性の女性的な会話に男が踏み入っては駄目、ということですね」

「そうそう……それ誰の言葉?」

「由紀ちゃんさんです」

「ああああああああああ」


 これは不味い。このままでは本当に村八分になってしまう。村じゃないけど。

「好感度を上げる方法には手助けをする、共同作業をする、贈り物をするなどがあります」

 唐突な成穂さんの発言はしかし、的を射た指摘だった。

「成穂さんは勉強熱心だねえ、そうそうそんな感じ」

「実行すればよろしいかと」

「現実はそんな上手くいかないぞ」

 手助けなんて相手が困っていなければ始まらない。共同作業なんてなおさら状況を作るのが難しい。後は贈り物だが女の子に何を送ればいいかなんて分からない。

「ああせめて同年齢くらいの助言してくれる人がいれば……」

 そこではたと気付いた。成穂さんが条件に合うのではないだろうか。

 

「何ですか」

 目の前の美少女をじっくりと見つめる。

 長い銀の髪。虹色に輝く瞳。今は外出時の黒髪黒目、黒縁眼鏡ではないのでその異彩さが際立っている。

 しかし、しかしである。成穂さんも女の子。年の頃も中学生と高校生の間くらいに見えるし、元々形容しがたい生き物だった面影はみじんもない。

 これはいけるのではないだろうか。俺が今まで暖めに暖めた妄想を実現できるのではないだろうか。

 

「作戦『俺よく分かんないから買い物に付き合ってよデート』開始だ」

「何ですか?」

 

 *

 

 所変わって場所は繁華街。

 郊外にある俺のアパートから二駅ほどの距離にこの街はある。

 地方都市と侮るなかれ。各県の県庁所在地は、東京人にとっても意外なほど発展している。と思う。109……緊急電話? OIOI……オイオイ?

 

「さあ見て回ろうか」

 駅前の歩行者専用道路を歩く俺は傍から見ても浮かれているのが分かるだろうくらいはしゃいでいた。

 それはそうだろう。なにせ隣には可愛い女の子が居るのだ。

 今は黒髪黒目、黒縁眼鏡の外出モードであるが仕方がない。そうでなければ成穂さんを見たものはその美貌ゆえ、一時的発狂に陥るのだ。俺は慣れた。

「慣れたわけではありません」

「心読んでツッコむの止めて、びっくりするから。で慣れたわけではないとは?」

「脳を――」

「ストップ」

 これ以上は聞いては駄目だ。この話はもう止めよう。人は知らない方が幸せな事があるのだ。

 

「さあそれよりデ、デートを続けようぜ」

 ああこっぱずかしい! だが人生初のデート。酸いも甘いも嚙み分けて来なかった青春時代を今、謳歌するのだ。

 

「この近辺から好感度を上げる品を探す、でいいのですね」

「ああそうそうそこの今川焼き、美味しそうじゃない?」

「あれは贈り物には不適です。それにあれは大判焼きです」

「お、アイス売ってるな。食べてくか?」

「この季節に低温の食品は不適です」

「ちょっと歩き疲れたな。そこの喫茶店でなにか飲んでいくか?」

「まだ電動車に牽引された付随車から降りて14分32秒です。そして主から疲労は測定されません」


 んんんんん。何故だ? 何故上手くいかない。俺が初めてだからか、初めてのデートだからか? いやいやそんな筈はない。俺は誰よりも女性の機微に聡いと自負している。

 ああなるほど、成穂さんは照れているのか。可愛いなあ。

 ああ待って成穂さん、一直線に何処かに向かっているけれど何処に行こうとしているんですか。

 

 それは直ぐに分かった。

「ストップ、ストップだ成穂さん」

「何故ですか?」

 これは本当に疑問に思っているやつだ。おうジーザス、なんてこった。

「それはね――」

 疑問に答えようとしたが時すでに遅し。

 成穂さんは己の定めた目的地に到達したのだった。

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