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第8話 支えるという仕事

第8話 支えるという仕事


 朝は、静かに始まる。


 保健室のカーテンは半分だけ開いている。光は入るが、外からは見えにくい角度だ。


 山本はベッドに腰掛けている。背もたれに寄りかかり、両手を膝の上に置いたまま動かない。


 養護教諭がカルテを閉じる。


「今日は、来られそう?」


「……はい」


 佐伯は頷く。


「途中で戻っていいから」


 山本は小さく頷いた。


 教室の扉は、少しだけ開いている。


 神谷は廊下に立つ。


 中には入らない。


 視界に入る位置で止まる。


 チャイムが鳴る。


 授業が始まる。


 板書の音が続く。


 視線が一度だけ扉に流れ、すぐに戻る。


 山本は席に座っている。


 ノートが開かれている。


 昼、購買の列は短い。


 順番に進む。


 声はある。


 手は出ない。


 午後、面談室。


 母親は背筋を伸ばしたまま座っている。


「……お願いします」


 頭を下げる。


 神谷は頷く。


「こちらで見ます」


 母親は顔を上げない。


 数秒、そのまま止まる。


 やがて立ち上がる。


 扉が開く。


 廊下で、佐伯が迎える。


「今日は、ありがとうございました」


 母親は首を横に振る。


「……いえ」


 一度、言葉が切れる。


「今日は、ありがとうございました」


 言い直す。


「……あの子にとって、助けになりました」


 佐伯は頷く。


 母親は頭を下げ、歩き出す。


 足音が遠ざかる。


 扉が閉まる。


 佐伯はその場に残る。


 壁に手をつく。


「……普通なら」


 言葉が止まる。


「このまま、いなくなる形になりますよね」


「そうしてきただけだ」


 神谷は短く言う。


 佐伯は何も返さない。


「託児の話、出してましたよね」


「この子のためですか」


「違う」


「必要になるやつが出たときのためだ」


 沈黙。


 佐伯は小さく息を吐く。


「……空いてる教室、増えましたね」


 神谷は答えない。


 放課後。


 教室はほとんど空いている。


 山本の席にノートがある。


 途中で止まっている。


 ページは閉じられていない。


 佐伯は一度だけ見る。


 触れない。


 教室を出る。


 神谷は後ろに立ったまま動かない。


 廊下に出る。


 掲示板に紙が貼られている。


 頭髪は黒。


 染色は禁止。


 理由は書かれていない。


 誰も立ち止まらない。


 神谷も見ない。


 歩き続ける。


 光が廊下に伸びている。


 そのまま消える。

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