第7話 カメラ
第7話 カメラ
放課後、教室の空気は昼よりも重い。
残っているのは数人だ。呼ばれた側と、呼んだ側。
机の上に、スマートフォンが置かれている。
神谷は教卓に立つ。
「見せろ」
短く言う。
生徒が一人、スマートフォンを差し出す。画面には動画が止まっていた。
再生する。
音は小さい。
だが、内容ははっきりしている。
購買。列。押しつける手。笑い声。
途中で止める。
「誰が撮った」
沈黙。
やがて、一人が手を挙げる。
「……俺です」
「上げたのも、おまえか」
「はい」
神谷は頷く。
「理由は」
生徒は視線を落とす。
「止めたかったんで」
一拍。
「みんな見たら、さすがに止まると思って」
言葉を探す。
「……あいつ、悪いし」
小さく付け足す。
誰も否定しない。
それが一番重い。
「どこに上げた」
「……SNSです」
「範囲は」
「クラスのグループと、あと……外にも」
三上が横でメモを取る。
「消せるか」
「今なら……」
「全部消せ」
即答する。
生徒は戸惑う。
「でも、証拠が——」
「証拠は学校で持つ」
神谷は遮る。
「外に出すな」
短い沈黙。
別の生徒が言う。
「でも、それが一番早く止まる方法じゃないですか」
神谷は視線を向ける。
「それで止まるのは“行為”じゃない」
一拍。
「“人間”だ」
言葉が落ちる。
誰も動かない。
「一度外に出たものは、戻らない」
それだけ言う。
机の上のスマートフォンを指で叩く。
「消したつもりでも、残る」
短い事実。
「処理はこっちでやる」
神谷は続ける。
「関係者は全員呼ぶ。事実を切り分ける」
視線を一人ずつに向ける。
「やったことは、名前で扱う」
「強要。恐喝。暴行。窃盗」
短く並べる。
「“いじめ”でまとめない」
最初と同じ言葉。
だが、今は意味が違う。
「ここで止める」
一拍置く。
「“見せしめ”で終わらせない」
静かな追加だった。
生徒は頷く。
小さく、確かに。
神谷は教卓から離れる。
三上が隣に立つ。
「全部、消えますかね」
小声で言う。
「消えない前提で動く」
神谷は答える。
「だから、広げない」
三上は息を吐く。
「……合理的ではあります」
どこか苦い声だ。
神谷は何も言わない。
廊下に出る。
外は暗くなり始めている。
画面の向こうは、もっと速い。
ここは遅い。
だが。
遅い方でしか、止められないものもある。
神谷は振り返らない。
線は、もう引いてある。




