表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/145

■第9章 第3節:連携崩壊

翌日。森に入った直後から、空気はどこか重かった。昨日の消耗は抜けきっていない。それでも依頼はあるし、止まる理由にもならない。三人は無言のまま進む。足音だけがやけに響く。


最初の接敵は早かった。茂みの奥から二体、間を置いてもう一体。数は多くない。以前なら問題にならない配置だ。


「前、出る」


ガルドが短く言い、踏み込む。盾で一体を受け、体勢を固定する。


「削る!」


レオンが横から入る。だが、踏み込みが浅い。間合いがわずかに足りない。


「もっと入れ!」


ガルドが言う。


「分かってる!」


レオンが一歩詰める。その瞬間、別の一体が横から割り込む。ガルドが受けるが、角度が悪い。衝撃が逃げきらない。


「カバー!」


ガルドが叫ぶ。


レオンが反応する。だが一瞬遅い。剣が届く前に、魔物の爪が盾の縁をかすめる。


「っ……!」


ガルドの足が半歩下がる。


「遅ぇ!」


「今行っただろ!」


声がぶつかる。


後方、セリスが詠唱に入る。


「……もう少しで」


魔力の流れが整う。だが、発動のタイミングで前衛の位置が変わる。魔法は外れ、地面を抉るだけに終わる。


「外すな!」


ガルドが怒鳴る。


「動いたからでしょ!」


セリスが言い返す。


「合わせろって言ってんだ!」


「合わせてる!」


互いに正しい。だから噛み合わない。


三人の動きは、それぞれ成立している。だが、同時に成立していない。ほんの一拍、ほんの半歩、そのズレが全体を崩す。


レオンがもう一度踏み込む。今度は深く入る。だが、ガルドの位置が一瞬手前に寄る。そのせいで剣の軌道が変わる。


「……邪魔だ!」


思わず出る言葉。


ガルドの動きが止まる。


「は?」


低い声。


「今、そこに来るなよ!」


「前が押されてんだろ!」


「押されてねぇ!」


「押されてる!」


言い合いの間にも、魔物は動く。間を縫って一体がセリスに向かう。


「来る!」


セリスが叫ぶ。


カバーは遅れる。レオンが振り向くが間に合わない。セリスは咄嗟に距離を取るが、足場が悪い。体勢を崩す。


「っ……!」


爪がかすめる。浅いが確実に入る。


「回復!」


レオンが叫ぶ。


セリスはポーチに手を入れる。だが取り出しが遅い。瓶を掴み、開け、飲むまでの動作が一つずつ重い。


「遅ぇって!」


ガルドが怒鳴る。


「分かってる!」


セリスも声を荒げる。


その間に、前線はさらに崩れる。ガルドは一体を受けながら、もう一体の動きを追いきれない。レオンは削りに入るが、焦りで精度が落ちる。


「一回引け!」


ガルドが叫ぶ。


「引くな、削り切る!」


レオンが返す。


判断が割れる。


その一瞬で、魔物が距離を詰める。ガルドが受けるが、体勢が崩れている。レオンが斬るが、浅い。セリスは回復に追われている。


連携がない。

それぞれが、それぞれの判断で動いている。


(……噛み合わねぇ)


ガルドは歯を食いしばる。


以前なら、こんなことはなかった。言葉にしなくても、動きで分かっていた。前に出るタイミングも、引くタイミングも、攻める瞬間も。


今は違う。


全部、言葉にしないと伝わらない。

そして、その言葉も間に合わない。


レオンが踏み込む。


「ここだ!」


斬る。ようやく一体が崩れる。


残り二体。だが、まだ噛み合わない。


「次、左!」


ガルドが言う。


「分かってる!」


レオンが返すが、動きは右に寄る。


「左だって言ってんだろ!」


「見えてる方優先だ!」


「勝手に変えるな!」


またぶつかる。


セリスが後ろで呟く。


「……もう、合わせて」


小さな声。だが、誰にも届かない。


二体目が倒れる頃には、全員の呼吸が乱れていた。最後の一体は、ほとんど流れで処理するしかなかった。精度はない。力で押し切るだけ。


ようやく終わる。


静寂。


誰もすぐに動かない。


「……なんだよ、今の」


レオンが吐き捨てるように言う。


「バラバラじゃねぇか」


ガルドは何も言わない。ただ、地面を見る。


セリスはポーチを握りしめている。残りの瓶が少ない。


「連携、取れてない」


セリスが言う。


「分かってる」


ガルドが短く返す。


「ならどうすんだよ」


レオンが苛立つ。


「指示出せよ」


その一言で、空気が止まる。


ガルドの目がわずかに細くなる。


「……前からこんなもんだろ」


低い声。


「違う」


セリスがはっきり言う。


「前は、もっと……」


そこで言葉が止まる。


“もっと何かがあった”

それは分かっている。だが、言葉にできない。


レオンが言う。


「回復のタイミング、ズレてるんだよ」


「分かってる」


セリスが答える。


「でも、見切れない」


「なんでだよ」


「……分かんない」


正直な答え。


ガルドはそのやり取りを聞きながら、視線を逸らす。


(……関係ねぇ)


頭の中で切り捨てる。


「慣れれば戻る」


口に出す。


「今がズレてるだけだ」


レオンが舌打ちする。


「いつまでそれ言うんだよ」


「じゃあどうすんだ」


「知らねぇよ」


答えはない。


三人はそのまま無言になる。


森の中は静かだ。だが、その静けさが逆に重い。


連携が崩れている。

それはもう、はっきりしている。


だが――


何をどう直せばいいのか、誰も分かっていない。


そして、誰もまだ認めていない。


“足りていないもの”の正体を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ