■第6章 第7節:白花の薬屋(新装)(下)
「……まだいたんですね」
シャーロットが声をかける。
老人は振り返る。
「ああ」
短い返事。
それで十分。
シャーロットはそのまま歩み寄る。
「少し、いいですか」
「なんだ」
まっすぐなやり取り。
シャーロットは一度だけ間を置く。
「……これ、大丈夫ですか」
曖昧にせず聞く。
老人の目がわずかに動く。
「何がだ」
「規模です」
はっきり言う。
「一気にここまでやってもらって……」
視線を外さない。
「都度払いなのは分かってますけど、それでも――」
言葉を探す。
「材料費もありますし、人も動いてます」
リナたちの生活もある。
全部が重なる。
「……本当に回りますか」
静かな問い。
老人は黙る。
少しだけ空を見る。
それから、シャーロットに視線を戻す。
「回る」
短く言う。
迷いがない。
シャーロットは一瞬だけ止まる。
「……理由、聞いてもいいですか」
老人は少しだけ息を吐く。
「簡単だ」
それだけ言って続ける。
「木はある」
短い言葉。
シャーロットは黙って聞く。
「山に行けば、いくらでもある」
「……はい」
事実だ。
「人もいる」
老人が続ける。
「村の連中、手は空いてる」
完全に余っているわけではない。
でも、動ける。
「じゃあ、足りないのは何だ」
シャーロットは答えない。
答えは分かっている。
老人が言う。
「薬だ」
静かに。
「山に行っても、薬はない」
その一言で全部繋がる。
木はある。
人もいる。
でも――
「薬だけは、ここにしかない」
シャーロットは少しだけ息を止める。
老人は続ける。
「お前がいないと、回らん」
短く。
はっきりと。
「村のためにも」
一拍置く。
「お前たちのためにも」
視線が交わる。
「この家は必要だろ」
それだけ。
シンプルな理屈。
だが、崩れない。
シャーロットはしばらく何も言えない。
考える。
計算する。
でも――
納得する。
「……そうですね」
小さく言う。
老人は頷く。
「だから、先に作る」
順番の話だった。
「後から回収すればいい」
都度払いの意味が、ここで繋がる。
シャーロットは少しだけ笑う。
「……理屈ですね」
「そうだ」
老人も短く返す。
感情ではない。
仕組み。
だから続く。
シャーロットは軽く頭を下げる。
「分かりました」
それだけ。
無理に何かを言わない。
ただ、受け取る。
老人は手を振る。
「気にするな」
それから、少しだけだけ続ける。
「払える分でいい」
シャーロットは顔を上げる。
「止まらなければいい」
その一言。
クロエが静かに言う。
「持続性、重視」
「うん」
シャーロットは頷く。
それが一番大事だ。
シャーロットは店の方を見る。
完成した白花の薬屋。
ただの建物じゃない。
「……回すね」
ぽつりと呟く。
老人は何も言わない。
だが、軽く頷く。
それで十分だった。
シャーロットは中に戻る。
リナとミアが待っている。
「……どうだった?」
リナが聞く。
シャーロットは少しだけ笑う。
「大丈夫」
それだけ。
ミアも小さく頷く。
クロエが言う。
「問題なしです」
三人の空気が少しだけ軽くなる。
シャーロットはカウンターに手を置く。
「……白花の薬屋」
小さく呟く。
「新装、完了」
クロエが答える。
リナが笑う。
ミアも小さく笑う。
それで十分だった。
ここはもう、
ただの店じゃない。
ちゃんと“回る場所”になった。
そして――
ここから、
また次が始まる。




