■第6章 第7節:白花の薬屋(新装)(上)
朝の光は、壁に切り取られてまっすぐ床に落ちていた。昨日までとは違う入り方。風も同じで、外からそのまま抜けるのではなく、一度中で流れてから出ていく。
白花の薬屋は、完全に“中と外”が分かれていた。
シャーロットはゆっくりと起き上がる。
「……静かだね」
ぽつりと呟く。
クロエが答える。「環境、安定」
「うん」
それでいい。
見渡す。
部屋がある。
通路がある。
台所がある。
カウンターがある。
調合室も分かれている。
昨日まで途中だったものが、全部繋がっている。
「……できてる」
小さく言う。
クロエが頷く。「完成です」
その言葉で、ようやく実感が追いつく。
リナとミアの方を見る。
ミアは起きていた。
少しだけ体を起こして、周りを見ている。
「……ここ」
まだ慣れていない声。
「白花の薬屋」
シャーロットが答える。
ミアはゆっくりと周りを見る。
「……違う」
正直な感想。
シャーロットは少しだけ笑う。
「変えた」
短く。
ミアはしばらく見てから、小さく言う。
「……広い」
リナも頷く。
「でしょ」
三人で少しだけ見て回る。
通路。
部屋。
台所。
どこも“ちゃんとある”。
ミアは何度も立ち止まる。
「……ここ、私の?」
「うん」
シャーロットは答える。
ミアはしばらく動かない。
それから小さく言う。
「……いいの?」
「いいよ」
それだけ。
それで十分だった。
一通り見終わる。
中央のリビングに戻る。
四人で少しだけ静かに座る。
外の音はない。
昨日までの賑やかさが嘘みたいだ。
「……終わったね」
リナが言う。
「うん」
シャーロットは頷く。
その時、ふと頭に引っかかる。
昨日までの流れ。
人の数。
規模。
そして――
「……お金」
ぽつりと呟く。
リナが反応する。
「……あ」
同じことを考えていた顔。
「……大丈夫なの?」
リナが小さく聞く。
シャーロットは少しだけ考える。
「……一気にやりすぎた気はする」
正直な言葉。
クロエが言う。「契約は都度払いです」
「うん、分かってる」
でも、それだけでは片付かない。
「あの人数で、この規模で……」
材料費。
人件費。
全部が一気に動いた。
「……足りるかな」
小さく呟く。
リナが少しだけ不安そうに言う。
「……私たちも、お金使うよね」
「使う」
シャーロットははっきり言う。
「生活もあるし、薬も作る」
ミアも小さく言う。
「……お金、いる」
静かな現実。
クロエが言う。「収支、再計算が必要です」
「だね」
シャーロットは立ち上がる。
「……ちゃんと聞こう」
曖昧にしない。
ここは誤魔化さない方がいい。
外に出る。
まだ残っているのは、井戸のおじいさんだった。




