表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/96

■第6章 第6節:整える(下)

夕方の光は、できかけの壁にやわらかく当たっていた。昼の間に組まれた内側の区切りは、もう“仮”ではなく、はっきりとした形を持っている。柱と柱の間に板が入り、空間が分かれる。通路ができ、部屋の輪郭が見える。


音はまだ続いているが、朝や昼とは違う。急ぐ音ではなく、整える音。叩く回数も少なく、確かめる動きが増えている。


シャーロットは入口の近くに立ち、その流れを見ていた。


「……中、変わったね」


ぽつりと呟く。


クロエが答える。「内部構造、確定段階です」


「うん」


一日でここまで変わるとは思っていなかった。


だが、今はもう違和感がない。


これが“普通”になり始めている。


リナがゆっくりと歩く。


区切られた空間の間を通る。


足取りは慎重だが、止まらない。


「……ここ、通路」


小さく言う。


「うん」


シャーロットが答える。


「そのまま奥が部屋」


リナは頷く。


少し進む。


別の区切りを見る。


「……ここも?」


「そう」


「……分かれるんだ」


その言葉は、確認というより実感だった。


シャーロットはそれを見て、少しだけ目を細める。


クロエが静かに言う。「認識、定着しています」


「うん」


それでいい。


リナはもう一つの区切りの前で止まる。


少しだけ迷う。


それから、ゆっくりと中に入る。


何もない空間。


まだ床も整っていない。


だが――


「……ここ、私の?」


小さく聞く。


シャーロットは一瞬だけ考える。


それから答える。


「そうなるね」


はっきりと。


リナはその言葉を受け取る。


すぐには何も言わない。


ただ、その場に立ったまま、周りを見る。


「……広い」


「うん」


「……一人?」


「うん」


短く答える。


リナは少しだけ息を吐く。


「……変な感じ」


「だよね」


シャーロットは少しだけ笑う。


今までなかったもの。


急にできる。


違和感があるのは当然だ。


リナは少しだけ壁に触れる。


「……でも、いい」


小さく言う。


その言葉は、昨日にはなかったものだった。


シャーロットはそれ以上言わない。


それで十分だった。


外では作業がほぼ終わりに近づいている。


最後の固定。


細かい調整。


音がさらに少なくなる。


老人の声が通る。


「そこ、締めるだけでいい」

「はい」

「今日はここまでだ」


その一言で、流れが変わる。


止まるのではなく、“終わる”動きに。


道具をまとめる。


木を揃える。


無駄がない。


クロエが言う。「本日作業、終了です」


「うん」


シャーロットは頷く。


外に出る。


人が少しずつ離れていく。


だが、昨日と同じように何人かは残る。


自然な流れ。


木こりの男が声をかける。


「明日でだいぶ形になるな」


「そうですね」


シャーロットが答える。


「楽しみだな」


軽く言って、戻っていく。


その言葉は軽いが、確かだった。


老人が近づく。


「中、形は出た」


「はい」


「明日、仕上げ入る」


「分かりました」


短い会話。


だが、もうゴールが見えている。


シャーロットは軽く頭を下げる。


「お願いします」


老人は手を振る。


「任せろ」


それだけ。


だが、それで十分。


リナが外に出てくる。


少しだけ疲れた顔。


でも、表情は落ち着いている。


「……できてきたね」


小さく言う。


「うん」


シャーロットが答える。


「もう少し」


リナは頷く。


それ以上は言わない。


でも、分かっている。


もうすぐ終わる。


店に戻る。


ミアの様子を見る。


目が少し開いている。


「……ミア?」


リナがすぐに近づく。


ミアの視線がゆっくりと動く。


リナを見る。


シャーロットを見る。


クロエを見る。


それから――


周りを見る。


変わった空間。


見慣れない配置。


「……ここ」


かすれた声。


「うん」


シャーロットが答える。


「少し変わった」


ミアはゆっくりと目を動かす。


区切られた空間。


柱。


壁。


理解しきれてはいない。


でも――


「……広い」


小さく言う。


リナが少し笑う。


「そうだよ」


ミアは少しだけ安心したように息を吐く。


それで十分だった。


クロエが静かに言う。「覚醒、安定」


「うん」


シャーロットは頷く。


外の音はほとんど止まっている。


中は静か。


四人分の呼吸だけが残る。


シャーロットはカウンターに戻る。


手を置く。


見える景色が違う。


「……もうすぐだね」


ぽつりと呟く。


クロエが答える。「はい」


リナも小さく言う。


「……うん」


ミアは目を閉じる。


安心したように。


その空気が、店の中に広がる。


白花の薬屋は、


“完成”の直前まで来ていた。


あと少し。


それで――


ちゃんとした“家”になる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ