表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/87

■第6章 第6節:整える(中)

昼の光は、壁になりかけの板に反射して、店の中をやわらかく照らしていた。外から差し込む光とは違う、少しだけ落ち着いた明るさ。昨日までの“通り抜けるだけの空間”とは明らかに違う。


音も変わっている。


外で広がっていた作業音が、今は内側に集まっている。木を合わせる音、釘を打つ音、短い確認の声。それらが近い距離で重なりながらも、不思議とぶつからない。


シャーロットはカウンターの内側に立ち、その流れを静かに見ていた。


「……近いね」


ぽつりと呟く。


クロエが答える。「作業距離、最小化されています」


「うん」


外で見るよりも、ずっと実感がある。


ここが変わっている。


そうはっきり分かる距離だった。


リナは少し後ろに立っている。


人が中に入ってくることに、まだ完全には慣れていない。


だが、逃げることもない。


ただ、見ている。


「……速い」


小さく言う。


「うん」


シャーロットは答える。


「もう慣れてるからね」


それぞれが、自分の動きを分かっている。


だから止まらない。


老人の声が通る。


「そこ、柱に当てるな。逃がせ」

「はい」

「隙間見ろ。詰めすぎるな」


短い指示。


それだけで動きが揃う。


クロエが言う。「精度、維持されています」


「だね」


シャーロットは軽く頷く。


一つ一つの動きが無駄なく繋がっている。


しばらくすると、一本の板が固定される。


それで、空間が一つ“区切られる”。


「……できた」


リナが小さく言う。


シャーロットも見る。


そこには、はっきりとした“部屋の境界”があった。


「うん」


短く答える。


ただの板一枚。


でも、それで意味が変わる。


リナはその前まで歩く。


手を伸ばす。


触れる。


「……ここが壁」


確かめるように言う。


「そうだね」


シャーロットが答える。


リナはそのまま少しだけ笑う。


ほんのわずか。


でも、昨日より自然だった。


シャーロットはその様子を見て、何も言わない。


言葉を足さない。


それでいい。


クロエが静かに言う。


「区画、一つ目完了」


「うん」


シャーロットは頷く。


これから増える。


部屋が、区切りが、形が。


外から木材が運ばれてくる。


中へ入る。


位置を合わせる。


固定する。


その繰り返し。


流れは止まらない。


シャーロットは一度だけミアの方を見る。


まだ眠っている。


呼吸は安定。


だが、さっきよりも少しだけ浅い。


「……そろそろかな」


小さく言う。


クロエが答える。「覚醒、近接」


「うん」


タイミングがいい。


変わった状態を見せられる。


リナもそれに気づく。


「……起きる?」


「もう少し」


シャーロットは答える。


リナは頷く。


少しだけ緊張した顔。


でも、逃げない。


そのまま待つ。


外ではなく、中で。


それが大きい。


老人が再び声を出す。


「次、ここだ。部屋分ける」

「はい」


別の位置に板が運ばれる。


新しい区切り。


また一つ、形が増える。


シャーロットはカウンターに戻る。


乳鉢に手を置く。


「……少しだけ作る」


クロエが答える。「必要量、低」


「うん」


軽くでいい。


支えるだけ。


薬草を少量だけ取る。


潰す。


混ぜる。


調整する。


動きは変わらない。


でも、意味は変わる。


「……回ってる」


ぽつりと呟く。


クロエが答える。「はい」


外と内。


作業と生活。


全部が繋がっている。


リナが近づく。


「……私もやる」


シャーロットは一瞬だけ見る。


それから頷く。


「水、お願い」


「うん」


リナが動く。


容器を持つ。


水を量る。


今度はこぼさない。


「……これくらい」


「いいよ」


シャーロットが答える。


そのまま続ける。


二人で一つを作る。


クロエが調整する。


三人で回す。


自然な流れ。


「……できた」


シャーロットが言う。


カップに移す。


外へ出る。


渡す。


受け取る。


飲む。


戻る。


その繰り返し。


木こりの男が言う。


「助かるな、これ」


「軽いやつです」


「それでいい」


短い会話。


でも、確実に繋がる。


老人のところへ行く。


「これ」


差し出す。


老人は受け取り、飲む。


何も言わない。


だが、首を一度回す。


「……いい」


それだけ。


十分だった。


リナがそのやり取りを見ている。


「……すごいね」


小さく言う。


「何が?」


シャーロットが聞く。


「……全部」


曖昧な答え。


でも、本音だ。


シャーロットは少しだけ笑う。


「まだ途中だよ」


「……でも、すごい」


リナはそう言う。


それでいい。


シャーロットはもう一度中を見る。


区切られた空間。


増えていく壁。


「……形になってきた」


ぽつりと呟く。


クロエが答える。「はい」


それだけ。


白花の薬屋は、


確実に“家”へと近づいていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ