表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/70

■第1章 第4節:追放された白魔法使い

森の中、少し開けた場所でレオンが足を止めた。戦闘の合間でもなく、依頼が終わったわけでもない。ただ、歩いている途中での不自然な停止だった。


「……ちょっといいか」


振り返らずに言う。その声はいつもと変わらない。軽くもなく、重くもない。ただの確認のような響きだった。


ガルドが足を止め、セリスも同じように動きを止める。シャーロットも少し遅れて立ち止まった。


「どうした?」


ガルドが短く聞く。


レオンは一度だけ周囲を見て、それからようやく振り返った。その視線は三人を順に見て、最後にシャーロットで止まる。


「結論から言う。シャーロット、お前は外れてくれ」


あまりにもあっさりとした言い方だった。


風が一瞬だけ止まったように感じる。森の音が遠くなる。シャーロットはその言葉をそのまま受け取るまで、少しだけ時間がかかった。


「……え?」


小さく声が漏れる。


レオンは表情を変えないまま続けた。


「今まで助かってたのは事実だ。でもな、コストに見合ってない」


言葉は淡々としていた。感情を乗せていない分、余計に冷たく聞こえる。


「コスト……?」


シャーロットが繰り返す。


セリスが横から口を開いた。


「魔力ポーションの消費量です。あなたがいることで、継続的に使用する必要が出ている。それが問題です」


理屈だけを並べる声だった。


「ですが、その効果は目に見えていません。大きな回復もない。結果として、費用対効果が悪いと判断しました」


淡々とした説明だった。間違っているとは思っていない声。


ガルドも腕を組んだまま言う。


「正直、そこまで回復されてる実感もねぇ」


短く、それだけだった。


シャーロットは少しだけ言葉を探す。


(回復、してるよ)


そう思う。でも、それをどう説明すればいいのか分からない。自分のやっていることは、目に見えない。派手な回復ではないし、数値としても出ない。


ただ、整えているだけだ。


「……でも」


口を開きかけて、止まる。


何を言えばいいのか分からない。


レオンが小さく息を吐く。


「別に揉めたいわけじゃない。ただ、これ以上は無駄だって判断しただけだ」


その言葉に、迷いはなかった。


「このまま三人でやっても問題ない。実際、さっきも余裕だったしな」


その言葉に、セリスが頷く。


「はい。現状の戦闘結果を見る限り、支援の有無による差は確認できません」


ガルドも短く言った。


「問題ねぇな」


三人の認識は揃っている。


シャーロットはそれを聞きながら、静かに息を吐く。


(そっか)


否定はできなかった。三人から見れば、そう見えているのだろう。実際、大きな回復をしているわけでもない。戦闘は安定しているし、誰も倒れていない。それが“普通”だと思われている。


その普通を、自分が作っているだけで。


「……分かった」


小さく、そう答える。


レオンは少しだけ視線を緩めた。


「悪いな。装備は持っていっていい。今までの分配もあるし、それは問題ない」


淡々とした処理のような言い方だった。


「ただ――」


一瞬だけ言葉を区切る。


「その杖は置いていってくれ」


シャーロットの手元に視線を向ける。


それは、少し前の依頼で手に入れた杖だった。まだ新しい。使い慣れてはいないが、確かに自分の装備として扱っていたものだ。


「それは、前の依頼で出たやつだ。パーティの共有資産って扱いだな」


レオンがそう言う。


セリスも補足する。


「適性を考えれば、私が使用した方が効率的です」


合理的な判断だった。間違ってはいない。


シャーロットは杖を見下ろす。


少しだけ、指に力が入る。


(……あ)


ほんのわずかに、迷いが生まれる。


でも、それもすぐに消える。


「……うん」


静かに頷く。


杖を外し、レオンの方へ差し出す。レオンはそれを受け取り、軽く確認してからセリスへ渡した。


それで終わりだった。


思っていたよりも、あっさりしている。


もっと何かあると思っていた。怒りとか、悲しみとか、そういう分かりやすい感情が出ると思っていた。


でも、出てこない。


ただ、少しだけ。


(ああ、そっか)


納得してしまっただけだった。


三人にとって、自分はそこまで必要な存在ではなかった。それだけのことだ。


「じゃあ、ここで解散だな」


レオンがそう言う。


「街に戻るなら勝手にしろ。危険な場所じゃないし、問題ないだろ」


その言葉にも、特別な感情はない。


ガルドも何も言わない。セリスもすでに杖の状態を確認している。


シャーロットは小さく頷いた。


「……うん、大丈夫」


それだけ言う。


レオンはそれ以上何も言わず、三人で歩き出した。


背中が、すぐに遠ざかっていく。


呼び止める理由はなかった。


シャーロットはその場にしばらく立っていた。森の音がゆっくりと戻ってくる。風が木々を揺らし、葉の擦れる音が耳に入る。


ひとりになった。


その事実を、ゆっくりと受け入れる。


(……まぁ、いいか)


小さく呟く。


できることは変わらない。やることも変わらない。ただ、少しだけ環境が変わるだけだ。


それだけのことだと思うことにした。


シャーロットは一度だけ深く息を吸って、それからゆっくりと歩き出す。来た道を戻るように。


手元には、もう杖はない。


それでも、不思議と困る感じはしなかった。


ただ――


ほんの少しだけ、胸の奥が静かに冷えているような感覚だけが残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ