■第3章 第4節:回し方(上)
翌朝、家の前にはすでに人の気配があった。
まだ日は高くない。それでも昨日より明らかに早い時間から、誰かが様子を見に来ている。扉の外に立つ気配は一人ではない。静かに待っているが、確実に“ここ”を目当てにしている。
シャーロットは机の前で手を止める。
「……来てるね」
小さく呟くと、クロエは窓の方を見て「三人です」と淡々と答える。
「増えてる」
「想定内です」
昨日の流れを考えれば自然だった。広まる速度は早くないが、確実に伝わっている。
シャーロットは軽く息を吐く。
(どう回すか、だね)
無理をすれば対応はできる。だが、それでは続かない。昨日決めた通り、できる範囲でやる必要がある。
シャーロットは立ち上がり、扉の方へ向かう。その途中で少しだけ足を止める。
「……順番、決めた方がいいかも」
ぽつりと呟く。
クロエが視線を向ける。
「理由は」
「混乱しそうだから」
外にいる人数が増えれば、自然と先後の問題が出る。誰から対応するのか、どこまでやるのか。それが曖昧だと、余計な負担が増える。
クロエは短く頷く。
「合理的です」
シャーロットは扉を開ける。
外には三人いた。昨日来た男の姿もある。他の二人は少し距離を取って立っていたが、こちらが出てくると視線が集まる。
「おはようございます」
シャーロットが軽く声をかける。
返事はまばらだったが、皆こちらを見ている。
「順番に見ますね」と続ける。
その一言で、空気が少し落ち着いた。
誰が先かで揉める様子はない。ただ、それぞれが一歩引くような動きを見せる。
(よかった)
大きな問題にはならなそうだった。
「昨日来た方からでいいですか?」
そう聞くと、男は少し驚いたように頷いた。
「……ああ」
他の二人も特に異論はないようだった。
シャーロットは一人ずつ中に通す。
同時には見ない。
一人ずつ、順番に。
それだけで、流れは整う。
最初の男は、昨日の傷の様子を見せる。布を外すと、赤みは残っているが悪化はしていない。
「昨日よりいいですね」
そう言うと、男は少しだけ表情を緩めた。
「痛みも減ってる」
「そのまま続けてください」
簡単に確認して、次へ回す。
時間はかけない。
でも、雑にはしない。
次の人を呼ぶ。
軽い咳、軽い疲労、軽い痛み。
どれも深刻ではないが、放置すれば長引くものばかりだった。
シャーロットはそれぞれに合うものを渡していく。
量は少なめ。
説明も簡潔に。
「無理しないでください」
「少しずつで大丈夫です」
その程度で終える。
外で待っている人の気配がある以上、ひとりに時間をかけすぎるわけにはいかない。
三人を見終えた頃には、少しだけ疲労が残っていた。
「……これ、思ったより来るね」
ぽつりと呟く。
クロエは変わらず静かに立っている。
「まだ増える可能性があります」
「だよね」
シャーロットは軽く息を吐く。
昨日は“始まり”だった。
今日は“流れ”になっている。
「……午前だけ、とかにしようかな」
ふとそう言う。
クロエが反応する。
「時間制限ですか」
「うん。ずっとやってると、たぶん持たない」
正直な感想だった。
作る時間も必要だし、休む時間も必要だ。
「妥当です」
クロエは短く答える。
シャーロットは扉の外を見る。
もう新しく来ている人はいない。
今のところは落ち着いている。
「じゃあ、午前だけ対応して、午後は作る時間にしようかな」
自分の中で整理するように言う。
クロエは小さく頷く。
「バランスは取れます」
それでいい。
無理をしない。
でも止めない。
シャーロットは机に戻る。
残っている材料と容器を確認する。
数は減っている。
補充が必要だ。
「午後、また取りに行くか」
ぽつりと呟く。
クロエがそれを聞いて言う。
「効率は良くありません」
「分かってる」
シャーロットは少しだけ笑う。
「でも、今はこれでいいかな」
まだ始めたばかりだ。
完璧に整える必要はない。
少しずつ形にしていけばいい。
外はゆっくりと明るくなっていく。
村の音も少しずつ増えていく。
その中で、シャーロットのやることは少しずつ決まってきていた。




