■第3章 第4節:回し方(中)
午前の対応を終えた頃には、机の上の容器はほとんど空になっていた。
数としては多くなかったはずなのに、減り方は思ったより早い。ひとりに渡す量を抑えているとはいえ、来る人数が少しずつ増えている分、消費の方が上回っていた。
シャーロットは容器を一つ手に取り、軽く揺らす。
「……もうないね」
ぽつりと呟く。
クロエがそれを見て言う。
「想定通りです」
「だよね」
分かってはいた。
だからこそ午前で区切ったのだが、それでも余裕があるとは言えない。
シャーロットは椅子に腰を下ろし、軽く背もたれに寄りかかる。
「これ、毎日やるならちょっと考えないと」
自然とそう口に出る。
クロエが視線を向ける。
「何をですか」
「量と時間」
短く答える。
「作る量が足りてないし、作る時間も足りてない」
どちらも同時に足りていない。
午前は対応に時間を取られ、午後は素材採取と作成に回す。だがそのサイクルだと、増えた分を埋めるだけで余裕が生まれない。
クロエは少しだけ間を置いてから言う。
「方法を変える必要があります」
「うん」
シャーロットは頷く。
ただ――
「でも、今はまだいいかな」
少しだけ考えてから、そう言う。
クロエはわずかに目を細める。
「理由は」
「まだ回ってるから」
それが答えだった。
ギリギリではあるが、回っている。無理をすればなんとかなる範囲だ。
「今変えると、逆に崩れそう」
やり方を大きく変えると、安定していたものまで崩れる可能性がある。
クロエは短く頷く。
「段階的な変更が適切です」
「そんな感じ」
シャーロットは軽く笑う。
完全に整えるのは後でいい。今は“止めないこと”の方が大事だった。
机の上に残っている素材を見る。
量は少ない。
だが、ゼロではない。
「とりあえず、ある分だけでも作るか」
そう言って立ち上がる。
クロエは何も言わず、少し後ろで見ている。
シャーロットは葉を手に取り、軽く状態を確認する。
(……やっぱりバラつきあるな)
同じように見えても、微妙に違う。
色、張り、香り。
それぞれに差がある。
昨日は気にしていなかったが、数を作るようになると無視できなくなってくる。
「これ、当たり外れあるね」
ぽつりと呟く。
クロエが答える。
「自然のものですから」
「だよね」
シャーロットは苦笑する。
同じ手順で作っても、材料が違えば結果も変わる。それは当たり前のことだった。
「……少し分けるか」
小さく呟く。
状態のいいものと、そうでないもの。
簡単に分けるだけでも、多少は安定するはずだ。
シャーロットは素材を並べ替える。
直感的に選ぶ。
理由は説明できないが、見れば分かる。
「こっちは良さそう」
良いものをまとめる。
「こっちは……ちょっと微妙」
別に分ける。
クロエがそれを見て言う。
「基準は変わらず曖昧です」
「うん」
「ですが、精度は上がっています」
シャーロットは少しだけ手を止める。
「分かるの?」
「見ていれば」
淡々とした答えだった。
シャーロットは少しだけ笑う。
「そっか」
それ以上は深く考えない。
分かっているなら、それでいい。
良い方の素材を使って、作り始める。
同じ手順。
同じ流れ。
少しずつ、繰り返す。
だが――
(やっぱり時間かかるな)
ふとそう思う。
一つ一つの工程は大したことではない。だが、数を増やそうとすると一気に重くなる。
「……これ、増えたら厳しいかも」
ぽつりと漏れる。
クロエが答える。
「その通りです」
否定はない。
事実として、そうだった。
シャーロットは小さく息を吐く。
「まぁ、今はいいか」
もう一度同じ言葉を繰り返す。
完全な解決は後回し。
今は回すこと。
それが優先だった。
外では昼の気配がゆっくりと流れている。
村の音は穏やかで、大きな変化はない。
その中で、シャーロットの中だけが少しずつ変わっていく。
やることが増えている。
考えることも増えている。
でも、それは嫌ではなかった。
むしろ――
(ちょっと面白いかも)
そんな感覚が、ほんの少しだけあった。




