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■第3章 第3節:はじめての提供(中)

昼を過ぎた頃、家の前に足音が止まった。軽い音ではない。迷っているような、少しだけためらいを含んだ足取りだった。


シャーロットは机の上で作業をしていた手を止める。「……誰か来た?」と小さく呟くと、クロエは外へ視線を向け、「一人です」と短く答える。


しばらくして、小さく扉が叩かれた。控えめな音だった。「はい」と返事をすると、ゆっくりと扉が開く。


顔を出したのは昨日の女性だった。「あの……」と遠慮がちに声をかけてくる。


シャーロットは立ち上がり、「どうしました?」と返す。女性は少し息を整えてから、「昨日の薬……子供の熱、だいぶ下がりました」とはっきり言った。


シャーロットは小さく頷く。「よかった」それだけだった。大げさに喜ぶわけでもなく、ただ結果を確認するように受け取る。


女性は続ける。「まだ完全ではないですけど、ちゃんと食べられるようになって……本当に、ありがとうございました」と深く頭を下げた。


シャーロットは軽く手を振る。「まだ途中だと思うので、無理させないでくださいね」とだけ返すと、女性は「はい」と頷く。


それから少し迷うようにして、籠を差し出した。中には野菜や乾いた果物が入っている。


「これ、少しですけど……」


シャーロットはそれを見る。(対価、か)と一瞬考える。最初から求めるつもりはなかったが、受け取らないのも違う気がした。


「無理しなくて大丈夫ですよ」と言うが、女性は首を横に振る。「そういうわけには……」と静かに言った。


シャーロットは少しだけ考えてから、その中の一つだけを取る。小さな果物を一つ。「じゃあ、これだけ」と言うと、女性は少し驚いた顔をしてから、安心したように頷いた。「ありがとうございます」と言うその声には、さっきとは違う納得が混ざっていた。


「また何かあったら言ってください」とシャーロットが言うと、女性は「はい」と答えて帰っていった。


扉が閉まり、静けさが戻る。シャーロットは机に戻りながら、「……なんか、それっぽくなってきたね」と小さく呟く。


クロエは「流れができています」と答える。


「流れ?」とシャーロットが聞くと、「需要と供給です」と淡々と返ってくる。


「難しく言うね」と少し笑うと、「事実です」と短く返された。


シャーロットは机の上のポーションを見る。数はまだ少ないが、昨日よりは確実に増えている。「もう少し作っとこうかな」と言うと、クロエは「在庫管理ですか」と返す。「そこまでじゃないけど、足りなくなるのは嫌だし」と軽く答えながら、再び手を動かし始める。


同じ手順。同じ感覚。少しずつ、安定してきている。


そのとき、外で別の声がした。「ここで合ってるか?」と男の声が響く。


シャーロットは手を止める。「……もう来た?」と小さく呟くと、クロエが外を見て「二人です」と答える。


「増えてるね」とシャーロットは苦笑する。「昨日の流れから考えれば自然です」とクロエは変わらず冷静だった。


つまり、広まっている。大げさではないが、確実に“情報”として動き始めている。


「どうするのですか」とクロエが聞く。


シャーロットは少しだけ考える。(断る理由はないよね)まだ余裕はある。対応できる範囲だ。


「とりあえず、見るだけ見る。無理なら無理って言うし」


クロエは小さく頷く。「妥当です」とだけ言った。


シャーロットは立ち上がり、扉へ向かう。


昨日まではなかった流れ。それでも、不思議と嫌ではなかった。むしろ――


(ちょっと楽しいかも)


そんな感覚が、ほんの少しだけあった。

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