表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/73

■第3章 第3節:はじめての提供(上)

翌朝、空気は少しだけ変わっていた。


昨日と同じ静かな村のはずなのに、どこか意識が外に向いているような感覚がある。特別な出来事があったわけではない。それでも、小さな変化は確実に積み重なっている。


シャーロットは机の前に立ち、昨日作ったポーションを見ていた。


容器は簡素なものだ。透明でもなければ綺麗でもない。ただ、中に入っている液体は安定しているように見える。濁りすぎず、沈殿も少ない。


(……大丈夫そう)


小さく息を吐く。


昨日は試しに作っただけだったが、何度か繰り返したことで、ばらつきは減っていた。完全に同じとはいかないが、大きく外れることもない。


「これなら、渡しても問題ないかな」


ぽつりと呟く。


クロエが後ろから答える。


「最低限の基準は満たしています」


「最低限かぁ」


少しだけ苦笑する。


「まぁ、それで十分かな」


完璧である必要はない。少なくとも、何もない状態よりは良い。それだけで意味はある。


シャーロットは容器をいくつかまとめて持つ。


数は多くない。だが、最初としては十分だった。


「昨日の子、様子見に行こうかな」


そう言って外に出る。


朝の村は、やはり静かだ。だが昨日よりも少しだけ人の動きがある。畑に向かう人、井戸へ行く人、家の前を掃く人。それぞれがゆっくりと動いている。


シャーロットは昨日の女性の家へ向かう。


場所は覚えている。


扉の前で、軽くノックする。


少しして、中から足音が聞こえた。


扉が開く。


昨日の女性が顔を出した。


「あ……」


一瞬驚いたような顔をする。


「昨日の……」


「様子、どうかなって思って」


シャーロットは軽く言う。


女性の表情が少しだけ緩む。


「少し熱が下がりました。まだ完全ではないですけど……昨日よりは楽そうです」


「そっか」


小さく頷く。


(ちゃんと効いてる)


強すぎるわけではない。


でも、確実に意味はある。


「これ、よかったら」


シャーロットは持ってきた容器の一つを差し出す。


「昨日と同じ感じで飲ませてください。少しずつで大丈夫です」


女性はそれを受け取り、少し戸惑うように見る。


「いいんですか?」


「うん。まだ試しだけど」


正直に言う。


完成品ではない。


ただ、使えないものでもない。


女性はしばらく迷ったあと、深く頭を下げた。


「ありがとうございます」


その言葉には、昨日よりも重みがあった。


シャーロットはそれを軽く受け止める。


「様子また教えてもらえると助かるかも」


「はい、もちろん」


それだけ話して、その場を離れる。


村の道を歩きながら、少しだけ考える。


(こういう感じでいいのかな)


売るわけでもない。


依頼でもない。


ただ、渡しているだけ。


でも、それで問題はなさそうだった。


クロエが後ろから言う。


「対価は取らないのですか」


「うーん」


少し考える。


「最初はいいかなって」


「理由は」


「ちゃんと作れるか確認したいから」


それが一番だった。


安定していないものを売るのは違う。


まずは使ってもらって、どうなるかを見る。


「それに――」


少しだけ言葉を区切る。


「ここ、お金あんまりなさそうだし」


クロエは何も言わなかった。


ただ、理解はしているようだった。


シャーロットはそのまま歩く。


井戸の近くを通ると、昨日の老人がまた座っていた。


「おはようございます」


声をかける。


「おう」


短く返事が返る。


シャーロットは少しだけ立ち止まる。


「腕、大丈夫ですか?」


老人は少しだけ自分の腕を見る。


「まぁな。こんなもんだ」


布は巻いたままだが、特に処置はされていないようだった。


シャーロットは少し考えてから、容器を一つ取り出す。


「これ、使ってみます?」


老人はそれを見て、少し目を細める。


「薬か?」


「簡単なやつですけど」


老人はしばらくそれを見ていたが、やがて受け取った。


「……試してみるか」


それだけ言う。


シャーロットは軽く頷く。


「無理そうならやめてくださいね」


「分かっとる」


短いやり取りだった。


それでも、昨日とは少し違う。


“渡す”という行為が、少しずつ形になってきている。


シャーロットはその場を離れながら、小さく息を吐く。


(……なんか、仕事っぽい)


思わずそう思う。


冒険者のような派手さはない。


依頼もない。


報酬も決まっていない。


それでも、誰かに必要とされて、何かを渡す。


それは確かに、“仕事”に近い感覚だった。


シャーロットは空を見上げる。


今日も静かな一日になりそうだった。


その中で、少しずつだけ。


自分のやることが形になっていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ