■第3章 第2節:素材採取の遠征(中)
村の外である程度の素材を集めてから、二人は家へ戻った。
朝よりも日が高くなっている。村の中にも少しずつ人の動きが出てきていたが、騒がしさはない。相変わらず静かなままだ。
家の前に立ち、シャーロットはポーチを軽く叩く。
「……こんな感じかな」
量としては十分とは言えないが、何もない状態よりはずっといい。とりあえず試すには足りている。
扉を開けて中に入る。
昨日軽く掃除したおかげで、最低限は使える状態になっている。机の上には何もなく、棚も空に近い。まだ“場所”でしかないが、それでも少しずつ整ってきている感覚があった。
シャーロットは机の上に素材を広げる。
葉の色、形、大きさ。ひとつひとつを軽く確認する。
(これと、これ……かな)
なんとなく組み合わせを考える。
そのときだった。
ふと、棚の奥に何かがあるのに気づく。
「……あれ?」
手を伸ばして取り出す。
それは一冊の本だった。
かなり古い。
表紙は擦り切れていて、角も潰れている。埃もかぶっている。長い間使われていなかったのが分かる状態だった。
シャーロットは軽く埃を払う。
「……本だ」
ぽつりと呟く。
机の上に置いて、ゆっくりと開く。
中の紙は黄ばんでいるが、まだ読める状態だった。文字は少し崩れているが、丁寧に書かれている。
「薬草……?」
最初のページには、簡単な薬草の説明が書かれていた。
見たことのある形もある。さっき外で摘んできたものに似ているものもあった。
「これ、使えるやつだ」
シャーロットは少しだけ身を乗り出す。
ページをめくる。
薬草の特徴、効能、簡単な扱い方。それほど詳しいものではないが、最低限の情報は揃っている。
さらにめくると、今度はポーションの作り方が書かれていた。
「……ほんとにあるんだ」
思わずそう呟く。
簡単な回復ポーションの作り方。材料、手順、火の使い方。かなり基本的なものだが、一通りの流れは書かれている。
シャーロットはしばらくそのページを見ていた。
(こうやって作るんだ)
今までのやり方とは違う。
感覚ではなく、手順として書かれている。
順番、量、時間。
すべて“決まっている”。
「……なるほど」
小さく呟く。
理解はできる。
理屈としては分かる。
だが――
(ちょっと面倒かも)
正直な感想だった。
手順が多い。
細かい。
一つ一つを守る必要がある。
「こういうの、ちゃんとやる人すごいな」
ぽつりと呟く。
クロエが後ろからそれを見ていた。
「基準が明確です」
「うん」
「再現性があります」
「それも分かる」
シャーロットはページを軽く指でなぞる。
「でも、ちょっと遅いかも」
「遅い?」
「うん。これ通りにやると時間かかる」
実際にやったわけではないが、見れば分かる。
火を使って、時間を測って、順番に混ぜる。
丁寧だが、その分時間が必要だ。
「昨日みたいに、その場で作るのは無理そう」
「当然です」
クロエは即答する。
「本来はそのように作るものではありません」
「だよね」
シャーロットは少し笑う。
ページを閉じる。
もう一度開く。
さっき摘んできた葉と見比べる。
「……似てるけど、ちょっと違う」
本に載っているものと、実際に持っているもの。完全に同じではないが、近いものはある。
「これ、代わりに使えるかな」
独り言のように呟く。
クロエは少しだけ考えてから答える。
「推奨はされません」
「でも、やる」
「止めません」
そのやり取りに、シャーロットは軽く笑った。
「ちょっとだけ、試してみる」
本を机に置く。
素材を手元に集める。
今までの感覚と、本の知識。
両方を頭の中で並べる。
(どっちでいくか)
少しだけ考える。
完全に本通りにやるか。
それとも、いつも通りの感覚でやるか。
「……混ぜるか」
小さく呟く。
それが一番しっくりきた。
本の流れをベースにしつつ、細かい部分は感覚で調整する。
どちらかに寄せるのではなく、両方使う。
シャーロットはそう決めた。
「まずは、これ」
一枚の葉を取る。
本の内容を思い出しながら、軽く処理する。
でも、完全には従わない。
自分のやりやすい形に変える。
クロエがそれを見ている。
何も言わない。
ただ、観察している。
シャーロットは手を動かしながら、小さく息を吐く。
(……これ、うまくいくかも)
理由はない。
でも、感覚としてそう思えた。
昨日よりも、少しだけ確信がある。
即席ではない。
でも、完全な手順でもない。
その中間。
それが、今のシャーロットには一番合っている気がした。




