■第3章 第1節:小さな村(中)
広場を離れて、村の中を少し歩く。
道は細く、踏み固められてはいるが整備されているとは言い難い。家と家の間隔も狭く、ところどころで修理途中の木材が積まれているのが見える。人の数は少ないが、完全に止まっているわけではない。畑の手入れをする人、井戸へ向かう人、家の前で座り込んでいる人。それぞれが静かに動いていた。
シャーロットはその様子を見ながら、ゆっくり歩く。
(忙しいって感じじゃないけど、余裕もないね)
王都とは違う。あそこは常に人が動き、何かが回っていた。ここは止まってはいないが、流れが遅い。その分、一つの問題が長く残る。
ふと、足を止める。
家の前で、小さな子供が座り込んでいた。膝を抱えていて、少し顔色が悪い。さっき見た咳をしていた子とは別だが、似たような状態に見える。
近くには大人の姿がない。
シャーロットは少し迷ってから、近づく。
「大丈夫?」
子供は顔を上げるが、すぐに視線を逸らす。
「……だいじょうぶ」
声は弱い。
明らかに大丈夫ではない。
シャーロットはしゃがみ込み、少しだけ距離を詰める。
「ちょっとだけ見てもいい?」
子供は小さく頷いた。
額に手を当てる。少し熱がある。高熱ではないが、放っておくと悪化しそうな状態だった。
(やっぱり)
原因は分からない。ただ、体調が崩れているのは確かだ。
「お水、飲めてる?」
「……ちょっとだけ」
「そっか」
シャーロットはポーチを確認する。中身はほとんどない。さっき使ったばかりだ。
(今は作るしかないか)
周囲を見渡す。すぐ近くに、さっき見たのと似た薬草が生えているのが見えた。
「あそこにあるやつ、ちょっと取ってくるね」
そう言って立ち上がる。
数歩で辿り着き、葉を数枚摘み取る。状態は悪くない。乾ききってもいないし、使えそうだ。
戻って、その場で軽く潰す。
「ちょっと苦いと思うけど、少しだけね」
子供に渡す。
少しだけためらったあと、ゆっくりと口にする。
顔をしかめる。
「にがい……」
「だよね」
シャーロットは苦笑する。
「でも、少し楽になると思う」
子供は黙って頷いた。
その様子を見て、小さく息を吐く。
(これくらいなら、すぐできる)
特別な道具もいらない。材料も、探せばある。
ただ――
(毎回これやるのは大変かも)
その場しのぎにはなるが、安定はしない。量も質もばらつく。
やるなら、ちゃんとした形にした方がいい。
「……やっぱり、作るか」
小さく呟く。
その声に、少し離れた場所に立っていたクロエが反応する。
「決めたのですか」
「うん。薬、ちゃんと作る」
クロエはわずかに視線を向ける。
「環境は整っていません」
「うん」
「材料も安定しません」
「うん」
「それでもですか」
シャーロットは少しだけ考えてから答える。
「それでもかな」
即答ではなかったが、迷いもなかった。
クロエはしばらく黙る。
それから、小さく息を吐いた。
「……あなたらしい判断です」
否定ではなかった。
シャーロットは少しだけ笑う。
「たぶんね」
立ち上がり、周囲を見渡す。
まず必要なのは場所だ。屋根があって、水があって、火が使える場所。それがあれば、ある程度形になる。
「空いてる家とかあるかな」
ぽつりと呟く。
クロエが答える。
「先ほどの老人に聞くのが早いと思います」
「ああ、井戸のところの」
「はい」
「じゃあ、行ってみよっか」
そう言って歩き出す。
クロエは一歩遅れてついてくる。
その距離は変わらない。
けれど、さっきよりも少しだけ“決まった感じ”があった。
シャーロットは歩きながら考える。
薬を作る。
売るのか、配るのか、そこまではまだ決めていない。
でも――
(とりあえず、必要な人に渡せればいいか)
それで十分だと思った。
全部は無理だ。
でも、見える範囲なら。
それだけでいい。
小さな村の中で、できることは限られている。
だからこそ、やることもはっきりしていた。




