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■第12章 第4節:商人の接触

昼の混雑が少し落ち着いた頃。

店内に、これまでとは違う空気が入ってきた。


扉が開く。


「失礼します」


低く、整った声。


入ってきたのは、冒険者ではない。

整った服装。装備は最低限。視線は店全体を一度で把握する。


「……商人」


クロエが小さく言う。


男は軽く会釈する。


「初めまして。白花の薬屋さんで間違いありませんか」


リナが一歩前に出る。


「はい、そうです」


男はゆっくりと頷く。


「噂は聞いております」


それだけで、用件はほぼ見えていた。


シャーロットは手を止めない。


「ご注文は?」


短く聞く。


男は少しだけ笑う。


「今日は“注文”ではなく、“提案”で来ました」


カウンターの前に立つ。


「お時間、少しいただけますか」


クロエがシャーロットを見る。


シャーロットは頷く。


「少しだけ」


それで十分だった。


リナがミアに視線を送る。


「回して」


「任せて!」


ミアが即答し、対応に入る。


クロエが位置を調整する。


店は止まらない。


その中で、会話が始まる。


商人が言う。


「単刀直入に言います」


無駄がない。


「素材を卸せます」


短い言葉。


シャーロットが視線を上げる。


「素材?」


「薬草、抽出用の基材、保存用の瓶」


一つずつ並べる。


「安定供給が可能です」


クロエがすぐに反応する。


「価格は」


商人は答える。


「市場より少し下で」


迷いがない。


「量を流す前提ですので」


クロエは一瞬だけ考える。


「品質は」


「一定以上を保証します」


即答。


シャーロットは聞いている。


何も言わない。


商人が続ける。


「そしてもう一つ」


少しだけ間を置く。


「ポーションの買い取りも可能です」


空気がわずかに変わる。


リナが視線を上げる。


ミアも手を止めかけるが、すぐに動かす。


クロエが言う。


「どの程度」


商人は答える。


「量次第ですが、定期的に引き取れます」


「町で流通させます」


はっきりと。


レオンたちのような個人ではない。

“流通”の話。


シャーロットが口を開く。


「全部は出しません」


即答。


迷いがない。


商人は少しだけ目を細める。


「理由を伺っても」


「ここで使う分があるので」


短い説明。


「村の分は残します」


それだけ。


軸は変わらない。


商人は頷く。


「当然です」


むしろ納得した様子。


「余剰分で構いません」


クロエが言う。


「条件は」


交渉に入る。


価格。量。頻度。


短い言葉で進む。


ミアとリナはその間も店を回している。


客は途切れない。


その様子を、商人は一度だけ見る。


(……回っている)


静かに理解する。


ただの噂ではない。


実際に“成り立っている”。


交渉は長引かない。


クロエがまとめる。


「この条件であれば問題ありません」


シャーロットが頷く。


「いいよ」


それで決まる。


商人が軽く頭を下げる。


「では、後日初回の素材を持ち込みます」


「買い取りの方も、準備を」


手際がいい。


無駄がない。


それだけ言って、男は一歩下がる。


「今日はこれで失礼します」


扉へ向かう。


その直前で止まる。


「……一つだけ」


振り返る。


「この規模で、この回転率」


「珍しいですね」


事実だけを言う。


シャーロットは答えない。


クロエが言う。


「効率化の結果です」


商人は小さく笑う。


「なるほど」


それ以上は聞かない。


扉を開ける。


外へ出る。


閉まる音。


店内は、何も変わらない。


「次の方どうぞー!」


ミアの声。


リナの受け答え。


クロエの調整。


シャーロットの手。


すべてがそのまま続いている。


だが――


一つだけ変わった。


外と繋がった。


素材が入る。

商品が出る。

金が回る。


白花の薬屋は、村の中だけの店ではなくなった。


流れの中に入った。


それは静かだが、確実な変化だった。

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