■第12章 第2節:ストロングポーションの強み
■第12章 第2節:ストロングポーションの強み
昼を過ぎた頃。
白花の薬屋には、村人よりも冒険者の姿の方が目立つようになっていた。
装備の擦れる音。
低い声での会話。
村の空気とは、少しだけ違う緊張感。
「ストロング、あるか?」
カウンターに立った男が言う。
リナが頷く。
「はい、あります」
「体力と魔力、どっちだ」
「両方ございます」
男は少しだけ迷う。
「……魔力、二本」
リナが受け取り、シャーロットへ視線を送る。
シャーロットはすぐに二本取り出す。
無駄のない動き。
男はそれを受け取り、軽く振る。
「……量、少ねぇな」
素直な感想。
クロエが答える。
「濃度が高いためです」
短く。
男が笑う。
「なるほどな」
そのままポーチに入れる。
「軽くて助かる」
それだけ言って店を出る。
ミアが小さく言う。
「最近、魔力の方多くない?」
リナが頷く。
「増えてます」
クロエが補足する。
「魔法職の来店割合が上昇しています」
その理由は、すぐに分かる。
扉が開く。
今度はローブ姿の男。
杖を持ち、少し疲れた顔をしている。
「……魔力、あるか」
「ございます」
「ストロングで」
迷いがない。
リナが金額を伝える。
男はすぐに払う。
瓶を受け取り、その場で蓋を開ける。
一気に飲む。
「……っ」
一瞬だけ目を閉じる。
それから、ゆっくり息を吐く。
「戻るな」
小さく呟く。
クロエが言う。
「回復量は通常の約二倍です」
男は頷く。
「分かる」
それだけ言う。
「これなら回数減らせる」
ポーチを軽く叩く。
「戦闘中に何回も飲むの、正直きついんだよ」
本音が漏れる。
「詠唱中に動きたくねぇしな」
ミアが言う。
「いっぱい飲まなくていいってこと?」
男は苦笑する。
「そういうことだ」
それから、少しだけ顔をしかめる。
「あと、地味に困るのがな……」
言いかけて止まる。
「……いや、いい」
クロエが言う。
「水分摂取量の問題ですね」
男が一瞬固まる。
「……ああ、それだ」
少しだけ気まずそうに笑う。
「飲めば飲むほど、な」
ミアが首を傾げる。
「?」
リナが軽く咳払いする。
「……そういうことです」
それ以上は言わない。
男は肩をすくめる。
「長期戦だと、洒落にならねぇ」
真面目な声。
「これなら回数減るし、助かる」
そう言って、もう一本買っていく。
扉が閉まる。
ミアが小さく言う。
「そんな理由もあるんだね」
クロエが答える。
「合理的な選択です」
一方で――
「ストロング三つ」
別の冒険者が言う。
今度は近接職。重めの装備。腕に包帯が巻かれている。
リナが確認する。
「体力でよろしいですか」
「ああ」
即答。
「急ぎだ」
声が低い。
シャーロットが三本並べる。
男はそれを一つ手に取る。
「これでどれくらい戻る」
クロエが言う。
「通常の二倍です」
男は短く頷く。
「なら十分だ」
迷いがない。
金を置く。
「戦闘中に時間かけてられねぇ」
現実的な言葉。
「一回で戻るなら、それでいい」
それだけ。
ミアが少し驚いたように言う。
「高いのに?」
男は一瞬だけミアを見る。
それから、静かに言う。
「安いだろ」
短い言葉。
「命に比べたらな」
それだけ言って店を出る。
ミアは少しだけ言葉を失う。
「……そっか」
小さく呟く。
リナが静かに言う。
「使う人は選びますね」
クロエが頷く。
「初心者の購入率は低いです」
「上級者ほど使用率が高い」
シャーロットはその会話を聞きながら、手を動かす。
天秤に薬草を乗せる。
左右を揃える。
その動きは変わらない。
だが、売れるものは変わっている。
量より質。
回数より効率。
そして――
「命に直結するものは、ケチらない」
その選択をする人間が、増えている。
白花の薬屋のポーションは、
“便利なもの”から
“必要なもの”へと、変わり始めていた。




