■第11章 第2節:変わった立場
店内の流れは止まらない。
「ライト二つお願い」
「はい、すぐ用意します」
リナが受け、シャーロットが調合し、クロエが瓶を整える。ミアが受け渡しと案内をこなす。動きに無駄がない。言葉も少ないのに、きちんと回っている。
三人は、その流れの中に入れないまま立っていた。
「……注文するか?」
レオンが小さく言う。
ガルドは少しだけ視線を動かす。
「必要ならな」
短い返事。
セリスはまだシャーロットを見ている。
「……体力、少し削れてる」
自分の状態を確認するように言う。
レオンが肩をすくめる。
「じゃあ買うか」
その言い方は、以前と変わらない。
必要なものを補充する、ただそれだけの感覚。
だが――
「ご注文は?」
リナが正面に立つ。
視線がまっすぐ向けられる。
レオンは一瞬だけ言葉を詰まらせる。
「……ライト、三つ」
「三つですね」
リナが頷く。
「お一つ銅貨三枚になります」
その一言で、空気がわずかに止まる。
レオンの眉が動く。
「……は?」
反射的に出る声。
「ライトポーションは銅貨三枚です」
リナは淡々と繰り返す。
「容器持参の場合は割引になりますが、今回は通常価格です」
説明は丁寧だが、感情はない。
レオンが小さく笑う。
「金取るのかよ」
半分冗談のような言い方。
だが、返ってくる言葉は変わらない。
「はい」
リナは頷く。
それだけ。
セリスが小さく息を呑む。
ガルドは何も言わない。
ただ、ポーチから硬貨を取り出す。
カウンターに置く。
「三つ」
短く言う。
リナが受け取り、数を確認する。
「ありがとうございます」
そのまま後ろへ回す。
シャーロットが瓶を三つ並べる。
手の動きは一定。迷いはない。
クロエがそれを整え、ミアが受け取る。
「はい、どうぞ!」
明るい声で差し出される。
レオンはそれを受け取る。
少しだけ、手が止まる。
「……ありがと」
自然に出た言葉。
だが、その直後に自分でも違和感を覚える。
(何だこれ)
客としてのやり取り。
それ以外の何でもない。
セリスも瓶を受け取る。
「……ちゃんと、揃ってる」
小さく呟く。
中の液体。
濁りがない。
揺れも均一。
以前とは明らかに違う。
ガルドも一本手に取る。
重さを確かめるように。
(……安定してる)
一目で分かる。
レオンが口を開く。
「……ちゃんとやってんだな」
言葉は軽い。だが、その中に混じる感情は軽くない。
シャーロットは答えない。
ただ、次の調合に入る。
天秤に薬草を乗せる。
左右を揃える。
その動きが、すべてを物語っていた。
セリスが言う。
「……すごいね」
素直な言葉。
それに対しても、シャーロットは特に反応しない。
クロエが小さく言う。
「品質は安定しています」
補足のように。
レオンが苦笑する。
「だろうな」
短く言う。
ガルドは店内を見回す。
客が並び、商品が動き、金が動く。
ここはもう、ただの“作業場”ではない。
(……成り立ってる)
はっきりと分かる。
一方で、自分たちは――
何も言わない。
言えない。
セリスが小さく言う。
「……変わったね」
誰に向けた言葉でもない。
だが、意味ははっきりしている。
シャーロットは一瞬だけ手を止める。
それから、すぐに動かす。
何も言わない。
レオンが言う。
「まあ……悪くねぇんじゃねぇか」
軽く言う。
だが、その言葉にはどこか引っかかりがある。
ガルドは黙ったまま。
ただ、距離を測るように見ている。
カウンターのこちら側と、向こう側。
ほんの数歩。
それだけの距離。
なのに――
埋まらない。
立場が変わった。
それが、言葉にしなくても分かるくらいにはっきりしていた。




