■第11章 第1節:偶然の再会
昼過ぎ。白花の薬屋は、いつもより少しだけ賑わっていた。
扉が開く音。
「いらっしゃいませー!」
ミアの明るい声が店内に響く。
カウンターの奥ではシャーロットが手を動かしている。天秤に薬草を乗せ、量を揃え、すり潰し、混ぜる。動きに迷いはない。隣ではクロエが瓶を整え、リナが受け渡しをしている。
「今日はライト多めにお願いできますか?」
「はい、すぐ用意します」
やり取りは自然で、途切れない。
棚には整然と並んだ瓶。種類も増え、ラベルも揃っている。以前とは明らかに違う、形になった店だった。
その中に、三人が入ってきた。
扉が閉まる音が、わずかに遅れて響く。
レオンが一歩中に入る。
「……なんだここ」
思わず口に出る。
見慣れない看板。白い花の印。だが、店の中に広がる空気は、どこか懐かしい匂いがした。
ガルドは何も言わない。ただ店内を見回す。
セリスは視線を奥へ向ける。
そこで、止まる。
「……あ」
小さく漏れる。
カウンターの奥。白い服の少女が顔を上げる。
一瞬、時間が止まる。
「……いらっしゃいませ」
シャーロットが言う。
声はいつも通り。
特別な感情は乗っていない。
レオンが目を見開く。
「……おい」
信じられないものを見るような目。
ガルドの視線も、わずかに止まる。
セリスは動かない。
シャーロットはそのまま手を動かす。天秤に薬草を乗せ、微調整し、均等にする。視線は一度外しただけで、すぐに作業へ戻っている。
ミアが気づく。
「お客さん? 注文は――」
言いかけて止まる。
空気が少しだけおかしいことに気づく。
リナも視線を上げる。
クロエは静かに三人を見る。
「……随分と、遅かったですね」
小さく言う。
レオンが眉をひそめる。
「何だよここ……」
問いというより、独り言。
セリスが一歩だけ前に出る。
「シャーロット……?」
名前を呼ぶ。
確認するように。
シャーロットは一瞬だけ手を止める。
それから、ゆっくりと顔を上げる。
「はい」
短い返事。
それだけ。
以前と同じ声。
だが、距離がある。
レオンが言う。
「……何やってんだ」
言葉が乱れる。
ガルドは何も言わない。
ただ、店の中を見る。
棚。道具。客。
全部が、整っている。
(……店か)
頭の中で整理する。
セリスが小さく言う。
「ここ……」
「白花の薬屋です」
クロエが答える。
その言葉で、はっきりする。
レオンが笑う。
乾いた笑い。
「は……薬屋?」
信じられないという顔。
「何だよそれ」
シャーロットは答えない。
ただ、手元の作業を終える。
瓶に液体を移し、蓋を閉める。
「ライトポーションです」
カウンターに置く。
別の客が受け取る。
「ありがとう、助かるよ」
自然なやり取り。
それを見て、三人の表情がわずかに変わる。
ガルドの視線が瓶に向く。
透明な液体。
だが、揺れがない。均一。
(……精度が高い)
一目で分かる。
レオンが言う。
「……売れてんのか」
半ば呆れたように。
ミアが即答する。
「売れてます!」
元気な声。
「毎日いっぱい来るよ!」
隠す様子もない。
リナが少しだけ補足する。
「常連の方も増えてます」
淡々と。
セリスは言葉を失う。
視線が、シャーロットから離れない。
「……そうなんだ」
小さく呟く。
シャーロットは頷きもしない。
ただ、次の作業に入る。
天秤に薬草を乗せる。
左右を揃える。
その動きが、やけに正確だった。
レオンが小さく言う。
「……マジかよ」
ガルドは何も言わない。
だが、視線は逸らさない。
以前、横にいた存在。
今は、カウンターの向こう側にいる。
その距離が、やけに遠かった。
店の中は、変わらず動いている。
客が来て、注文が入り、商品が渡される。
三人だけが、その流れから外れていた。
偶然の再会。
それは、思っていたものとはまったく違う形で、目の前にあった。




