■第11章 第3節:謝罪
店の中の流れは、少しだけ落ち着いた。
昼のピークが過ぎ、客の数が途切れる。カウンターの前に空間ができる。瓶の整理をする音だけが、静かに残る。
ミアが小さく言う。
「……今なら大丈夫そう」
リナが頷く。
クロエは視線を三人に向ける。
シャーロットは手を止めない。
だが、完全に無視しているわけでもない。
その距離感が、余計に空気を重くする。
レオンが一歩前に出る。
「……なあ」
声をかける。
シャーロットは顔を上げる。
「はい」
短い返事。
それだけで、続きを促す。
レオンは一瞬だけ言葉を迷う。
それから、口を開く。
「……あの時は、悪かった」
静かな声。
軽くもなく、重すぎもしない。
だが――
足りない。
シャーロットは何も言わない。
ただ、見ている。
レオンが続ける。
「状況があったっていうか……」
言葉を選ぶ。
「余裕なかったし、判断も……」
そこで止まる。
ガルドが口を開く。
「結果として、切った」
短くまとめる。
レオンが少しだけ顔をしかめる。
セリスが一歩前に出る。
「……ごめん」
小さく言う。
視線を落としたまま。
「ちゃんと見れてなかった」
「気づけてなかった」
言葉は真っ直ぐだが、どこか遅い。
シャーロットはそれを聞いている。
反応はしない。
クロエが静かに言う。
「謝罪は受理されました」
淡々とした声。
「……は?」
レオンが眉をひそめる。
「受理?」
クロエは頷く。
「意思表示としては十分です」
それ以上でも、それ以下でもない。
レオンが少しだけ苛立つ。
「いや、そういう話じゃなくて――」
言いかける。
だが、シャーロットが先に口を開く。
「分かりました」
短い言葉。
それだけ。
レオンが止まる。
「……それで終わりか?」
思わず聞く。
シャーロットは首を傾げる。
「終わり?」
「いや……その……」
言葉が続かない。
何を期待していたのか、自分でも分からない。
怒るかもしれない。
責められるかもしれない。
拒絶されるかもしれない。
だが、どれでもない。
ただ、「分かりました」と言われただけ。
それが逆に、距離を感じさせる。
セリスが小さく言う。
「……怒ってないの?」
シャーロットは少しだけ考える。
「怒る理由はありません」
静かな答え。
「もう関係ないので」
その一言で、空気が止まる。
レオンの表情が固まる。
ガルドの視線がわずかに動く。
セリスは言葉を失う。
「……関係ないって」
レオンが繰り返す。
シャーロットは頷く。
「はい」
それだけ。
事実として受け止めているだけの声。
感情が乗っていない。
レオンが小さく笑う。
乾いた笑い。
「そっかよ」
言葉は軽い。
だが、その裏は軽くない。
ガルドが低く言う。
「……それでも、謝罪はした」
確認するように。
シャーロットは答える。
「はい」
「受け取った」
「はい」
会話はそれで終わる。
それ以上、広がらない。
セリスが小さく呟く。
「……遅かった」
自分に向けた言葉。
誰も否定しない。
レオンは視線を逸らす。
ガルドは何も言わない。
シャーロットは再び手を動かす。
天秤に薬草を乗せる。
左右を揃える。
その動きは、変わらない。
何もなかったかのように、作業が続く。
それが、何よりもはっきりしていた。
謝罪は終わった。
だが――
関係は、戻らない。




