■第10章 第4節:転落
ギルドの外に出ると、昼の光がやけに眩しかった。中の空気が重すぎたせいか、外のざわめきが別の世界のように感じられる。
レオンが舌打ちする。
「……クソが」
それ以上の言葉は続かない。
ガルドは何も言わずに歩き出す。セリスも後ろにつく。行き先は決めていない。ただ、立ち止まっているわけにもいかなかった。
通りを歩く。見慣れたはずの街。だが、どこか違って見える。
「……なあ」
レオンが小さく言う。
「腹減ってる」
いつもなら、そのまま近くの店に入る。何も考えずに。だが今日は、少しだけ足が止まる。
ガルドが短く言う。
「行くぞ」
三人は店の前に立つ。木の看板。いつも通っていた店だ。
扉を開ける。
中の空気が一瞬だけ止まる。
店主の視線がこちらに向く。だが、その視線はいつもと違った。歓迎でも、無関心でもない。ほんのわずかに、距離を置くような目。
「……空いてるか」
ガルドが言う。
店主は少しだけ間を置く。
「……悪いが、今日は満席だ」
中を見る。席は空いている。
レオンが眉をひそめる。
「空いてるだろ」
店主は目を逸らす。
「予約が入ってる」
短い返答。
それ以上は言わない。
沈黙が落ちる。
ガルドは何も言わずに扉を閉める。
外に出る。
レオンが吐き捨てる。
「……なんだよ今の」
答えはない。
少し歩く。
次の店。扉を開ける。
同じような反応。
「……今日はちょっと」
「席はある」
「いや、その……」
言葉を濁す。
結局、入れない。
三人は店の前を離れる。
セリスが小さく呟く。
「……噂、かな」
レオンが顔をしかめる。
「早すぎだろ」
「ギルドで決まったんだ」
ガルドが言う。
「広がる」
それだけ。
沈黙。
三人はそのまま通りを進む。
掲示板の前を通る。いつもなら依頼を選ぶ場所。だが、今日は誰も足を止めない。
止められない。
見ても意味がないと分かっているからだ。
レオンが言う。
「……どこ行く」
「宿」
ガルドが答える。
いつも使っている宿へ向かう。
扉を開ける。
受付の男が顔を上げる。目が合う。一瞬だけ、言葉が詰まるような間。
「部屋、空いてるか」
ガルドが言う。
男は視線を外す。
「……すまない、満室だ」
同じ言葉。
だが、今度は言い訳もない。
レオンが一歩前に出る。
「昨日は空いてたろ」
「今日は……埋まった」
目を合わせない。
嘘だと分かる。
だが、それを指摘する意味もない。
ガルドが言う。
「分かった」
それだけ。
三人は外に出る。
扉が閉まる音が、やけに重い。
しばらく誰も喋らない。
やがて、レオンが言う。
「……マジかよ」
笑えない声。
セリスは俯いたまま動かない。
ガルドは少しだけ空を見上げる。
(……早いな)
落ちるのが。
昨日まで普通に使えていた場所。
普通に受けられていた依頼。
普通に入れていた店。
それが、全部少しずつ離れていく。
「どうする」
レオンが聞く。
「別の宿探す」
ガルドが答える。
それしかない。
三人は街の外れへ向かう。中心から離れるほど、店の質は落ちる。人も減る。だが、選べる立場ではない。
古い建物の前で止まる。
「……ここでいいか」
ガルドが言う。
レオンは少しだけ顔をしかめるが、何も言わない。
中に入る。
今度は断られない。
「三人部屋、空いてるよ」
あっさりと通される。
それだけで、少しだけ分かる。
(……そういうことか)
ガルドは何も言わない。
部屋に入る。
狭い。古い。だが、今はそれでいい。
レオンがベッドに腰を落とす。
「……最悪だな」
呟く。
セリスは窓の近くに立つ。
外を見る。
何も変わっていない街。
ただ、自分たちの立ち位置だけが変わっている。
ガルドは壁にもたれる。
目を閉じる。
何も考えたくなかった。
だが、頭の中でははっきりしている。
もう、前と同じ場所にはいない。
それだけは、否定できなかった。




