■第10章 第3節:ライセンス剥奪
再度の呼び出しは、その翌日だった。
「……またかよ」
レオンが不機嫌そうに吐き捨てる。前回のやり取りが頭に残っている。あの数字、あの言い方。気に入らないことばかりだった。
「行くぞ」
ガルドが短く言う。
セリスは何も言わず、ただ後ろをついていく。
ギルドの奥。前と同じ部屋。だが、今回は扉の前に一人、見慣れない職員が立っていた。制服の色が違う。記章も違う。
「中でお待ちです」
形式的な言葉。
ノック。
「入りなさい」
扉を開ける。
中には、管理官と――もう一人。机の横に立つ、より上位の職員。年齢は上だが、表情は硬い。書類が机の上に整然と並べられている。
「座りなさい」
短い指示。
三人は席に着く。椅子の軋みがやけに大きく聞こえる。
沈黙。
管理官ではなく、横に立つ職員が口を開く。
「結論から伝えます」
前置きがない。
「あなた方の上位冒険者ライセンスは、本日付で停止されます」
一瞬、音が消えたように感じた。
レオンが眉をひそめる。
「……は?」
短い声。
職員は続ける。
「依頼達成率の低下、資材消費の増加、負傷率の上昇。改善の見込みなしと判断されました」
淡々と並べる。
「よって、上位ランク依頼の受注権限を停止します」
ガルドが低く言う。
「……一時的か」
「現時点では無期限です」
即答。
レオンが机に手をつく。
「ふざけんな」
声が荒くなる。
「たかが数回のズレで――」
「数回ではありません」
職員が遮る。
「継続的な低下です」
言葉を選ばない。
「記録はすべて確認済みです」
逃げ道はない。
セリスの指がわずかに震える。
ガルドは視線を外さない。
「……立て直す時間は与えられたはずだ」
職員は頷く。
「与えました」
それだけ。
「結果が出ていません」
レオンが言い返す。
「だから今――」
「これ以上の損失を防ぐための措置です」
重ねて言い切る。
言葉を被せる余地がない。
部屋の空気が固まる。
管理官が静かに書類を差し出す。
「こちらに署名を」
形式的な手続き。
ガルドは書類を見る。そこには、ライセンス停止の文言が並んでいる。細かい説明。条件。再審査の可能性。
だが、目に入るのは一行だけだった。
――上位依頼受注不可。
レオンが低く吐く。
「……ありえねぇ」
セリスは何も言わない。視線を落としたまま動かない。
ガルドがペンを取る。
一瞬だけ止まる。
だが、迷いは長く続かない。
署名する。
紙の上に音が残る。
レオンがそれを見る。
「おい……」
止める言葉は出ない。
ガルドはペンを置く。
「……受ける」
短く言う。
拒否する意味がないと分かっているからだ。
職員は書類を回収する。
「確認しました」
それで終わり。
あまりにもあっさりしている。
レオンが椅子を蹴るように立ち上がる。
「納得いかねぇ」
吐き捨てる。
「どう判断されようと、結果は変わりません」
職員が淡々と返す。
セリスもゆっくり立ち上がる。
ガルドは最後に一度だけ職員を見る。
何も言わない。
言っても意味がないと分かっている。
三人はそのまま部屋を出る。
扉が閉まる。
廊下に出た瞬間、レオンが壁を殴る。
鈍い音。
「クソが……!」
拳を握る。
「こんなの、認められるかよ」
セリスは俯いたまま動かない。
ガルドは少し先を見ている。
(……ここまでか)
頭の中で静かに思う。
だが、それを口にはしない。
レオンが言う。
「どうする」
答えを求める声。
ガルドは短く言う。
「下からやり直す」
それしかない。
セリスが小さく呟く。
「……本当に?」
その問いに、ガルドは答えない。
レオンも何も言わない。
三人の間に、重い沈黙が落ちる。
上位の依頼はもう受けられない。
今までのやり方は通用しない。
評価は落ちた。
事実だけが残る。
そして――
何が原因だったのかは、まだ誰も言わない。
ただ一つだけ、はっきりしている。
元には戻らない。




