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メイド

「ねえフィーナ、あなたこっちに座りなさいな」



 大量の事務仕事を処理しながら、こともなげにソフィアは言った。



(わたくし)が陛下のお隣の席にというのは、とても恐れ多く…………」


「あなたは、私に二度同じことを言わせたいのかしら?」


「…………失礼いたしました。全て、陛下の御心のままに」



 言うと、フィーナは深く礼をしてから、ソフィアの座るソファーに相席した。



「…………違うわよ」


「な、何か間違いを犯してしまったでしょうか?」


「私はこっちに来なさいと言ったのよ」



 ソフィアが自身の脚に手をやった。

 ソファーとするにはあまりに惜しい、意匠の凝らされたドレスをなぞる白魚のような手。

 隣に座るだけでも鼻腔に届く香水とソフィアの合わさった香り。

 その二つが、視界を揺らすほどに激しくフィーナを誘惑する。


「来ないの?」



 言い、ソフィアが微笑んだ。

 


「…………陛下の威厳を欠かれる行為かと」


「誰が見ているの? あなたが私を見損なうのかしら?」


「………………陛下の公務のお邪魔となってしまうかと」


「…………既に、私のことなど見損なっていたの?」


「そ、そのようなわけでは!」



 慌てて訂正したフィーナは、僅かに頬を赤く染めると、唾を飲み、潤んだ瞳を揺らしながら移動する。


 腰を浮かせてスカートを正してから、なるべくドレスに皺をつけないよう体を近づける。

 腰を下ろす際、一度、二度と躊躇うが、その度にソフィアの命令が脳裏を過ぎる。

 

 これは、女王陛下により下された命令なのだ。

 己の体は何のためにある。

 ソフィア・セルトゥーユ女王陛下の命令を果たすためだ。

 ならば、何を躊躇う。

 

 そう何度も反芻しながら、フィーナはついに腰を下ろし終えた。

 スカートとドレス越しにでも、その奥の肌はベルベットよりも滑らかなのだと確信出来る。

 目を向けずとも、ソフィアは微笑んでいるのだろうと感じられる。

 


「これで、よろしいのですか…………?」


「ええ。言う通りに出来て偉いわね」



 言いながらフィーナの頭を撫でる手に、もはや報告書など存在していなかった。

 


「陛下っ……もし人が来てしまったら…………」


「来ないわよ。私の探知にだって誰も――――」



 言いかけた所で、扉が叩かれた。

 ソフィアは何かを思い出したように苦い顔をし――――それから、急ぎ脚の上より降りようとしていたフィーナの腰に腕を回し、引き止める。



「お前が居たわね…………良いわ、入って」


「女王陛下、少しばかり邪魔をするが――――っと。本当に邪魔だったか?」


「ええ邪魔よ。しょうもない話だったならば裂くわ」


「なら、俺の明日は安泰らしい。これを見てくれ」



 天然パーマの茶髪を一つに結んだ、どこか覇気に欠ける男は言った。


 無精髭、皮も鎧に、ロクな手入れがされていないと一目で分かる、近衛騎士団所属を示すマント。

 そして、手には鈍く光る槍。


 不潔、武装と、城内で女王の前に立つ最低限の礼儀すら備わっていない様子の男だが、それでも未だに頭が胴と繋がっているのは、その立場と、実績あってのことである。



「ハルクス団長! こ、これは違うのです!」


「何も違くないわ。フィーナ、あなたはお口チャックよ」



 頭を撫でられながらそう命じられてしまうと、もはやフィーナに発言権は残らない。

 耳まで真っ赤にしながら、ただ頷くばかりだ。



「この前提出したの魔物被害に対する資料、あれは見てくれたか?」


「丁度、それに目を通し終わったところだけれど」


「あれから、魔物の数が急増した。殆どネズミ算式にだ…………」


「…………それで?」


「陛下の御遣いついでに半数ほど減らしては来たが…………あれから二日は経ってる。今はどうなってるか、考えたくもねえ」


「それで、急ぎ戻って来た姿がソレということかしら?」


「ハハっ。手厳しい…………今回ばかりは、何卒ご容赦いただきてえモンだが」


「…………ご苦労。他に何もなければ下がって休みなさい」


「はいよ。それじゃあさっきの続きを――――」



 途中まで言いかけて、ふとハルクスが停止する。



「そう言えば、もう一つあった」


「…………何」


「検問所で、どうしても女王陛下に直接お渡ししたいのだ〜と、木箱の中身を見せずごねてる奴がいたぜ」



 当然、許されるわけがない。

 直接渡すにしろ、間接的に渡すにしろ、中身の検閲は避けて通れぬもの――――それを知らぬ程度の者ならば、なおさら女王への御目通りなど叶いはしない。



「名は何だったか…………確か、バロック商会とか」


「よく分かったわ。ご苦労」



 話を終えると、今度こそハルクスは部屋を去って行った。



「バロック…………面倒な奴よ」


「確か、商会長が以前ゴーレムで…………」


「そう。あれ以来、何とか予算を手に入れようと、貢物、貢物…………何故その金を研究に回そうと思わないのか。甚だ疑問よ」



 心の底から呆れたように言う。

 普段見せる悪態、辛辣とはまた違う、嫌悪の混じったその様子に、フィーナはどうしたものかと考える。



「ご命令さえいただければ、(わたくし )が払って参りますが」


「駄目。あの埃は払うと逆に増えて戻って来るのよ」


「では、どうしたら…………」



 フィーナが困り果てていると、ソフィアは息を漏らすように笑った。

 あなたは、本当に…………などと、口から漏れ出しそうな言葉を飲み込むと、フィーナを足の上から降ろして立ち上がり、指でついて来るようにと示す。



「たまには、ガス抜きも必要よね」

 

 

読んでくださりありがとうございます!

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(更新状況とか)

@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)

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