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家族が消えた日、俺は警察に“選ばれた”  作者:
国会議員殺害事件
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白い容器

橘の机の写真を、もう一度開く。


整っているはずの机。


だが、あの日だけは違う。


崩れている。


(違うな)


指で画面をなぞる。


(これは、“崩された”んじゃない)


“探された跡”だ。


橘は探していた。


自分の机で、自分の物を。


几帳面な人間が。


決めた位置に置く人間が。


(それが、ない)


小さく息を吐く。


「何を?」


答えは、もう近い。


(白い、携帯用)


(人と会うときに使う)


(口元に触れる)


(複数ある)


(誰かが渡した)


線が一本にまとまる。


だが——まだ、“決定打”がない。


 


「……足りないな」


 


呟いたとき。


 


「何がですか?」


 


振り返る。


あの男だ。


穏やかな笑顔。


名前は——


「……仁平、だったか」


「はい。仁平慎です」


自然な返答。


隙がない。


(こいつも、綺麗だな)


「手伝いましょうか?」


「いや、大丈夫だ」


そう言いながら、観察する。


視線。動き。呼吸。


すべて自然。


(自然すぎる)


 


「橘さんって、几帳面でしたよね」


 


仁平が、ふと口を開く。


 


「ああ」


 


「なのに、あの日の机、少し崩れてたって聞きました」


 


(知ってるのか)


 


「珍しいですよね」


 


軽く笑う。


 


「忙しかったんじゃないか?」


 


あえて、流す。


 


「そうかもしれませんね」


 


仁平は頷く。


 


「でも」


 


ほんの一瞬、間。


 


「何か探してるようにも見えたんですよ」


 


(探していた)


 


確信に近づく。


 


「見つかったのか?」


 


「どうでしょう」


 


少しだけ首を傾げる。


 


「そのあと、誰かに渡してもらってたみたいですし」


 


空気が止まる。


 


(誰かに、渡してもらった)


 


「……誰だ」


 


仁平は、少しだけ考える素振りを見せる。


 


「さあ。そこまでは」


 


自然。


あまりにも自然。


 


(嘘がないように見える)


 


だが——


 


「お前は、何してた」


 


一歩、踏み込む。


 


「僕ですか?」


 


笑顔は崩れない。


 


「普通に仕事してましたよ」


 


「その日、橘に何か渡してないか」


 


一瞬。


 


ほんの一瞬だけ——止まる。


 


だが、すぐに戻る。


 


「いいえ」


 


即答。


 


(今の間)


 


確信が、形になる。


 


(白い、携帯用)


(人前で使う)


(口元に触れる)


(誰かが渡す)


(複数ある)


 


そして——


 


(“優しさで渡される”)


 


すべてが繋がる。


 


静かに、口を開く。


 


「……ハンドクリームだな」


 


 


沈黙。


 


 


空気が、変わる。


 


 


仁平の笑顔が——止まる。


 


ほんのわずかに。


 


だが、確実に。


 


「……」


 


否定しない。


 


それが答えだった。


 


「白い容器。携帯用。複数ある」


 


一歩、近づく。


 


「人前で使う。口元に触れる」


 


さらに詰める。


 


「誰かに渡されても、不自然じゃない」


 


視線がぶつかる。


 


「そして——」


 


一拍。


 


「疑われない」


 


完全に、沈黙。


 


仁平は、ゆっくりと息を吐いた。


 


そして——


 


「すごいですね」


 


穏やかな声。


 


だが、その奥が変わっている。


 


「そこまで辿り着きますか」


 


(確定だ)


 


「だが、証拠がない」


 


あえて言う。


 


仁平は、少しだけ首を傾げる。


 


「証拠、ですか」


 


ポケットに手を入れる。


 


「それなら」


 


取り出す。


 


白い、小さな容器。


 


指で、軽く転がす。


 


「ここにありますよ」


 


空気が、止まる。


 


(やはり、それか)


 


「安心してください」


 


仁平は微笑む。


 


「もう中身は空ですけどね」


 


その一言で——


 


すべてが、確定した。


 


優しさ。


 


無防備。


 


日常。


 


その中に、仕込まれていた死。


 


「……なぜだ」


 


低く問う。


 


仁平は、少しだけ考えてから——


 


「簡単ですよ」


 


静かに言った。


 


「信じてくれる人ほど、壊しがいがあるでしょう?」


 


その笑みは、もう——


 


善人のものではなかった。


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