胡散臭い先輩
「だからなんなんだよお前……」
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黒川は楽しそうに笑った。
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「そういう反応するんだね」
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「初対面で名前知ってたら普通だろ」
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「それもそうか」
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黒川はあっさり頷いた。
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「じゃあ改めてよろしく」
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「どうも」
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「航くん」
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「その呼び方やめろ」
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「嫌だ」
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即答だった。
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「なんでだよ」
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「なんとなく」
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「最悪だな」
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横で成瀬が吹き出す。
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「相性悪そうだな、お前ら」
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「こいつが悪い」
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「心外ですね」
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成瀬が肩をすくめた。
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◇
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数分後。
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航は結局まだ段ボールを運ばされていた。
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「なんでこんなにあるんだよ……」
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「頑張れ新人」
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成瀬は椅子に座ったまま言う。
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「手伝え」
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「断る」
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「クソ先輩」
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「聞こえてるぞ」
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黒川が少し笑った。
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「成瀬さん、本当に容赦ないですね」
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「今さらか」
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「今さらですよ」
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成瀬が天井を見上げる。
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「なんかもう息合ってない?」
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「最悪な意味でな」
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「否定はしません」
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「お前ら仲良くなれそうだな」
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「絶対嫌だ」
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「それは同感です」
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成瀬が腹を抱えて笑い始める。
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「はははっ!」
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「笑うな!」
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「楽しんでますよね?」
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◇
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しばらくして。
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最後の段ボールを運び終える。
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「終わった……」
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航が机に突っ伏した。
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「お疲れ様」
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黒川が缶ジュースを差し出す。
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「ん」
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「……あ?」
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「ご褒美」
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「子供か」
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そう言いながら受け取る。
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冷たい。
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思ったより生き返る。
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「サンキュ」
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「どういたしまして」
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黒川も隣へ腰を下ろした。
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少し沈黙。
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騒がしい空間なのに、
なぜか居心地は悪くない。
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「そういえば」
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黒川が口を開く。
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「航くんって、サクラ歴どれくらい?」
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「最近」
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「聞いてたより短いな」
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「誰から聞いたんだよ」
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「いろいろ」
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「便利な言葉だな」
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黒川が笑う。
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「便利だからね」
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航は缶を傾ける。
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「お前は長いのか」
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「まあ、それなりに」
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「へぇ」
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「だから困ったら聞いてよ」
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「なんで」
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「なんとなく」
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「お前もかよ」
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黒川が少し笑う。
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「ははっ」
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そして少しだけ視線を落とした。
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「……溜め込むタイプでしょ、航くん」
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「は?」
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「違う?」
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航は答えない。
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黒川も追及しない。
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ただ。
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「頼ってね」
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静かな声だった。
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「僕が頼ることになるかもしれないけど」
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航は少しだけ眉をひそめる。
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「胡散臭ぇ」
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「ひどいなぁ」
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そう言いながらも、
黒川はどこか楽しそうだった。
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その時。
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ピロン。
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黒川の端末が鳴る。
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黒川が画面を見る。
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「あ」
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「どうした」
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「ちょっと呼ばれた」
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黒川が立ち上がる。
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「悪いね」
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「別に」
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「また今度話そう」
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「はいはい」
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黒川は小さく笑う。
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「じゃあね、航くん」
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「その呼び方やめろ」
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「嫌だ」
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即答だった。
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「ムカつくなこいつ……」
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黒川は楽しそうに笑いながら去っていく。
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その背中を見送った直後。
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「原田」
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聞き覚えのある声。
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成瀬だった。
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嫌な予感がした。
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「なんですか」
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「新人教育だ」
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沈黙。
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「……は?」
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成瀬がニヤッと笑う。
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「今日、新人が来る」
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「へぇ」
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「お前担当な」
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「は?」
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「頑張れ先輩」
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「俺も新人だぞ」
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「知ってる」
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「知ってて言ってんのかよ」
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「まあ頑張れ」
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「雑すぎるだろ」




