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新人の仕事

朝。



目が覚める。



天井。


見慣れた部屋。



数秒。


何も考えない。



そして。



「あー……」



昨日のことを思い出す。



朔。


柳。


陸からの連絡。



全部。



「めんどくせぇ」



布団の中で呟く。



もちろん何も解決していない。



でも。



世界は待ってくれない。



仕事はある。


任務もある。



航は重たい体を起こした。





数時間後。



サクラ本部。



エレベーターの扉が開く。



いつも通り。


忙しそうな人、暇そうな人。


多種多様な人たちが行き交っていた。



航は欠伸を噛み殺しながら歩く。



すると。



「お」



聞き覚えのある声。



航が顔を上げる。



そこにいたのは。



「今日はいるんだな」



成瀬まりだった。



一瞬。


まりが固まる。



そして。



「おはようございますはないのかよ」



呆れた顔。



航は少し視線を逸らした。



「……おはようございます」



「よろしい」



まりが笑う。



「おはよう」



そのやり取りが妙に自然で。



航は少しだけ眉をひそめた。



「今日は任務ないのか?」



「いや」



まりは端末を軽く持ち上げる。



「今日は本部で指示出し」



「へぇ」



航は適当に返す。



そして数秒後。



止まった。



「……は?」



「ん?」



「指示出し?」



「うん」



「そんな重要そうなこと、するんすか?」



まりが怪訝そうな顔をする。



「晴とか颯真から聞いてねぇのか?」



「何を」



「うちが頭脳部門のトップだって話」



沈黙。



数秒。



さらに数秒。



「……は?」



「だから」



まりが言う。



「頭脳部門トップ」



「いやいやいや」



航は思わず後退る。



「え?」



「え?」



「え?」



「なんで三回言った?」



「だってお前」



航が指をさす。



「初任務で会った時そんな感じ一切なかったぞ」



「失礼だな」



「普通に現場の人だと思ってた」



「失礼だな」



「二回言った」



まりは呆れたように息を吐く。



「晴は発明部門」



「おう」



「颯真は戦闘部門」



「おう」



「で、うちが頭脳部門」



「……あー」



航が頭を掻く。



「そういや、あいつらが言ってた気がする」



「今思い出したのかよ」



「しょうがねぇだろ」



「しょうがなくない」



即答だった。



航は肩をすくめる。



まりは小さく笑った。



「ほら」



端末を持ち直す。



「うちも暇じゃないんだ」



「はいはい」



「どいたどいた」



「はいはい」



まりが通り過ぎる。



数歩。



歩いたところで。



「あ」



まりが立ち止まった。



振り返る。



「原田」



「ん?」



「今日、暇か?」



航が眉をひそめる。



「は?」



まりは少しだけ笑った。



「先輩として仕事を教えてやろう」



それだけ言う。



そして。



「まあ」



「?」



「頑張れ、新人」



「うわ腹立つ」



「ははっ」



まりはそのまま歩く。



航は追いかける。



「おい!なんなんだよ!」



「さーなー」





十数分後。



「よし」



成瀬まりが満足そうに頷く。



航の目の前には。


大量の段ボール。



机。


椅子。


本棚。


ロッカー。



「……」



「……」



「俺、何かしました?」



「してない」



即答だった。



「じゃあなんで俺なんですか」



「新人だから」



「最悪だ」



成瀬は満足そうに頷く。



「じゃ、頼んだ」



「待て」



「頑張れ」



「待てって」



「じゃあな」



「おい」



そのまま去っていった。



「……帰りてぇ」



もちろん帰れない。



航は諦めて段ボールを持ち上げた。



重い。



思ったより重い。



「なんで本棚まであるんだよ……」



ぶつぶつ言いながら歩く。



その時。



「あ」



バランスが崩れた。



ガタンッ。



段ボールが傾く。



中身が飛び出しかける。



その瞬間。



横から手が伸びた。



「大丈夫?」



荷物が支えられる。



航が顔を上げた。



知らない男だった。



「……は?」



男は柔らかく笑う。



「原田航だよね」



航の動きが止まる。



「おま――」



数秒。



「お前、なんで俺の名前知ってんだよ!?」



男はきょとんとした。



「有名だから?」



「疑問形で返すな」



「え?」



「え?じゃねぇんだよ」



航は本気で困惑していた。



「全然嬉しくねぇ……」



男が少し笑う。



「初めまして」



そう言いかけた時――



「おい!原田!」



聞き覚えのある声。



航が振り向く。



「成瀬……」



さっきどっか行ったはずの成瀬まりだった。



「お前、本部で指示出しじゃなかったのかよ……」



「それがな」



まりが肩をすくめる。



「警察の方に事件取られた」



「は?」



「あっちのが早くてなー。今須藤が交渉中」



「じゃあ手伝えよ!!」



「断る」



即答だった。



航は本気で腹が立った。



「お前絶対暇だろ」



「うるさい」



まりは隣の男を親指で指す。



「どうせなら黒川にやってもらえ」



「ちょうど暇そうだし」



「お前も暇だろ」



「うるさい」



二回目だった。



「……黒川?」



航の頭に浮かんだのは。


国会議員の黒川。



(いや、黒川なんてたくさんいるか……)



男が少し首を傾げる。



そして。



「ああ」



柔らかく笑った。



「僕が黒川」



手を差し出す。



「黒川悠人」



「よろしくね、航くん」



航は差し出された手を見る。



それから。



黒川を見る。



知らない顔。



でも妙に距離が近い。



初対面とは思えないくらい自然に話してくる。



(なんなんだ?こいつ)



数秒迷い。



「あ、おう……」



とりあえず握手した。



その瞬間。



黒川が一瞬だけ目を細める。



「ふーん……」



「?」



航が眉をひそめる。



黒川はすぐに笑った。



「いや」



「なんでもない」



そう言って手を離す。



「これからよろしくね」



「航くん」



「だからなんなんだよお前……」



黒川は楽しそうに笑った。

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