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朔の足音が完全に消えたあとも、空気だけがその場に残っていた。
重くて、張りついたままの静寂。
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「……一回、頭冷やす」
晴がぽつりと言った。
いつもの軽さは、少しだけ削れていた。
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颯真が短く息を吐く。
「俺も。……あれだ」
「……うん」
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その瞬間。
足元の床が、静かに沈む。
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「――は?」
航が反射的に一歩引く。
「どこ行くんだよ」
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晴は視線だけ上げた。
「ちょっとね」
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颯真も淡々と続ける。
「すぐ戻る」
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「お前も来るか?」
晴が軽く言う。
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「いや……いい」
航は少しだけ間を置いて、そう返した。
理由はうまく言えなかった。
ただ、今は一人の方がいい気がした。
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晴が一瞬だけ目を細める。
「そっか」
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颯真はそれ以上何も言わない。
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次の瞬間。
二人の姿が、音もなく沈んで消えた。
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残ったのは航だけだった。
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「……なんで」
ぽつりと漏れる。
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(なんで、行かねぇって言ったんだろ)
(あいつら、ちょっとだけ……)
(さみしそうだった気がする)
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でも、頭がうまく追いつかない。
さっきの言葉。
朔の顔。
声。
全部がまだ絡まったままだった。
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「……まあいいか」
小さく息を吐く。
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そして、誰もいない通路で一人。
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「戻るか」
航はそう呟いて、ゆっくり歩き出した。




