朔
地下。
サクラ本部・拘束区画。
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コンクリートの壁。
白すぎる照明。
静かな通路。
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航は無言で歩いていた。
前を歩くのは颯真。
隣には晴。
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誰も喋らない。
靴音だけが響く。
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「……ここ」
晴が小さく言う。
通路の突き当たり。
重い扉。
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航はその扉を見つめたまま立ち止まる。
呼吸は浅い。
でも、
迷いはなかった。
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颯真が横目で見る。
「今なら戻れるぞ」
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航は小さく鼻で笑った。
「ここまで来て?」
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短い沈黙。
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ガコン。
電子ロックが外れる。
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扉が開いた。
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暗い部屋。
机。
拘束椅子。
無機質な壁。
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そして。
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そこにいた。
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黒髪。
少し長くなった前髪。
見慣れた目。
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椅子に座った少年は、
つまらなそうに椅子を揺らしていた。
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航は止まる。
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「……光兄さん?」
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「……朔」
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数秒。
目が合う。
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朔がふっと笑う。
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「ひさしぶり、光兄さん」
「元気そうでよかったよ」
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その瞬間。
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「何が、“元気そうでよかった”だ!!」
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航の声が部屋に響く。
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「どんだけ探したと思ってんだバカ!!」
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空気が静まり返る。
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朔が一瞬だけ目を丸くする。
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航の肩は震えていた。
怒ってるのか。
安心してるのか。
自分でも分かってないみたいに。
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「急に俺一人残して消えて」
「勝手にいなくなって」
「挙句の果てに仮面つけて犯罪側にいんじゃねぇよ……!!」
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朔は少しだけ視線を落とした。
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「……でも」
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静かな声。
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「光兄さん」
「探さなかったじゃん」
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航の呼吸が止まる。
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「……は?」
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「休暇」
朔は椅子にもたれたまま言う。
「あったんじゃないの?」
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(休暇……)
(陸と話して、休んで……)
(あれ……)
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(俺、探して……)
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朔が続ける。
「僕らのために」
「お父さんのために」
「サクラに入ったんでしょ?」
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「なのに、探してないじゃん」
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ズン、と。
何かが沈む。
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航の目が揺れる。
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(俺は……)
(何のために……)
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「まあ、陸さんに扱かれてた時期は許すよ?」
朔は軽く笑う。
「大変だったってことくらい分かってるし」
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でも。
次の言葉は、あまりにも軽くて。
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「もし探してくれてたら」
「一緒に来てもらおうと思ってたのに」
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「……は?」
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空気が凍る。
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「ちょっとストップー」
晴が笑顔のまま割って入る。
でも、
目だけ笑っていなかった。
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「さすがにそれは見過ごせないな〜」
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カチャ。
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小さな金属音。
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航が振り向く。
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颯真が、
無言で銃に手をかけていた。
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部屋の温度が下がる。
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朔が少し目を細めた。
「へぇ」
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晴は静かな声で続ける。
「目の前で勧誘宣言されるとはねぇ」
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「舐められたもんだな」
颯真が低く言う。
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「ふふっ」
朔は笑う。
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「おい!お前ら、今俺が――」
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「航は一回黙ってて」
晴が遮る。
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「……っ」
航が言葉を飲み込む。
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晴は朔を真っ直ぐ見た。
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「君達が消えてから」
「彼、休まる場所もなくて」
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「つい昨日」
「初めて泣いたばっかなんだよ」
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静寂。
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朔は数秒黙る。
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それから、
ふっと笑った。
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「ふーん」
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「晴さんも、颯真さんも」
「自分に少し似てるからって、原田航のこと大切にしすぎじゃない?」
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その瞬間。
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颯真の目から、完全に温度が消えた。
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「……おま」
航が息を呑む。
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「颯真」
晴が先に声をかける。
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「銃、しまえ」
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短い沈黙。
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「……ああ」
颯真がゆっくり手を離す。
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でも。
視線だけは外さなかった。
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朔はそんな二人を見て、
どこか楽しそうに笑う。
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「ふーん?」
「じゃーね」
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「……は?」
航が顔を上げる。
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「君達が来るってことで」
「僕、わざわざ部屋から出てきたんだけど」
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「部屋?」
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「ここ待遇いいね〜」
朔が周囲を見回す。
「三食完備だし、トイレもあるし、擬似庭園もあるし」
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「住みたくなっちゃう」
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「朔!!まだ話は――」
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朔は立ち上がる。
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そして最後だけ。
少しだけ目を細めて。
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「じゃーね」
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「原田航」




