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机
ただいま、陸。」
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少ししてから、リビングから声が返ってきた。
「……おかえり」
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「仕事は?」
「休みだ。言っていなかったか?」
「いや、言われてねぇ」
「……そうか」
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沈黙。
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「飯は?」
「食べる」
「食うか」
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少し大きな食卓に、二人分が並ぶ。
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箸の音だけが、やけに響く。
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「そーいや」
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航がふと口を開く。
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「俺が来る前も、この大きさだったのか?この机」
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一瞬。
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ほんの一瞬だけ、陸の手が止まる。
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「……いや」
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短い否定。
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「お前が来るってなった時に、買った」
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航は少しだけ眉を動かす。
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「それにしてはデカくね?」
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陸は箸を置かないまま答える。
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「これから、増えるかもだろ」
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その言葉で、空気がわずかに止まる。
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航は顔を上げる。
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「誰がだよ」
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陸は、少しだけ間を置く。
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ほんの一拍。
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「……お前の、兄弟だ」
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沈黙。
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箸の音が止まる。
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航の手も止まっている。
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(兄弟)
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その言葉だけが、頭の中で残る。
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「……どうした」
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陸の声。
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航はすぐに顔を下げる。
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「……いや、なんでもねぇ」
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少しだけ遅れて、箸を動かす。
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味は分からない。
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でも、飲み込む。
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「そうか」
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陸はそれ以上、聞かない。
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ただ——
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その“大きすぎる机”だけが、
妙に現実に残っていた。




