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成瀬まりという女 その1
沈黙。
「お前、兄弟いるって言ってたじゃねぇか」
「ああ」
「うちも、いた」
間。
「妹」
「ああ」
「優芽って言う」
「……そうか」
「優しいやつだった」
「誰か倒れてたら、真っ先に行くタイプ」
「ああ」
成瀬まりは少しだけ目を細める。
「……いい子だったんだな」
それだけ言って、また黙る。
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「死んだよ、優芽」
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沈黙。
エンジン音だけが続く。
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「だからさ」
「遅れるの、嫌いなんだよ」
「次に間に合わねぇのが一番だるい」
「背負ってるな」
成瀬は、少しだけ間を置いてから言う。
「背負ってる奴ほど、そう言う」
「……違う」
「じゃあ何」
「持ってるだけ」
「重さは同じだろ」
間。
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「正しいとか、どうでもいい」
「ああ」
「次に間に合う方がいい」
「……それでいいよ」
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エンジンが止まる。
サクラテラス。
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「着いた」
ドアが開く。
誰もすぐには降りない。
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成瀬まりは、降りる前に一度だけ言う。
「なあ」
「ああ」
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「優芽ってさ」
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一拍。
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成瀬は視線を前に戻したまま言う。
「……サクラのデータ、まだ残ってるんだよな」
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