交戦開始
入口。自動ドアが開く。「いらっしゃいませ」——笑顔が薄い。須藤は止まらず奥へ。航と成瀬も続く。廊下、人の動きは普通。でも違う。
「……音が軽い」
成瀬。
「生活音じゃない。作ってる」
須藤が壁の前で止まる。手を当てる。カチ。壁がずれる。暗い入口。冷たい空気。
「ここからだ」
三人で入る。扉が閉まる。音が消える。地下、長い通路。
「数は」
「十前後。武器あり」
短いやり取り。
須藤が振り返る。
「航、前に出ろ」
「……は?」
「実戦だ」
須藤は動かない。見るだけ。
(試されてる)
一歩出る。気配。前方、影。踏み込む。拳を打つ。重い。ナイフが来る。横にズラす。かすめる。
「ちっ」
二人、三人と増える。囲まれる。後ろを見る。須藤、腕を組んで静観。
(マジかよ)
横。成瀬は既に動いていた。細い槍を引き抜く。無駄がない。
一人目、喉元ギリで止めて崩す。二人目、足払いと同時に柄で叩く。倒れる。軽いが速い。
(非力だけど——速ぇ)
航は正面に集中。来る。読む。半歩ズラす。カウンター。肘で崩す。二人目、足払い。三人目、先に打つ。沈む。
「……ほう」
須藤の声。少しだけ興味。
背後。気配。
「左、死角」
成瀬。
反射で回避。振り向きざまに打つ。沈む。
「助かる」
「仕事」
短い。
残り数人。航が踏み込む。連続で崩す。成瀬は間合いを保ち、槍で牽制して隙を作る。最後の一人、武器を落とす。
静寂。
「……はぁ、はぁ……」
航が息を整える。
須藤が歩み寄る。
「……まあ、合格だ。ギリな」
「厳しすぎだろ」
成瀬が槍を収める。
「だから言ったでしょ。死ぬからって」
静寂。倒れた連中。息だけが残る。
須藤が背を向ける。「終わったな」
航が息を整える。「……終わったの?」
「ああ」
「え?ボスとか、幹部は?」
須藤が顎で示す。「そこに転がってる」
視線を落とす。装備も気配も違う数人。(最初から混ざってたのかよ)
須藤が歩き出す。「帰るぞ」
「はやっ」
「後処理は別だ」
地上。夜気。車の横で須藤が止まる。「俺は別件だ」
「は?」
「後は任せる」
成瀬が短く頷く。「了解」
須藤はそのまま別の車へ。振り返らない。(自由すぎるだろ)
残る二人。乗り込む。エンジン。走り出す。
ふと視界の端。成瀬の歩幅がほんのわずかにズレる。
「……なあ」
「なに」
「薬局寄っていい?」
一拍。「好きにしろ」
停車。航が降りる。明るい店内。必要なものだけ取る。すぐ戻る。
ドアを閉める。袋を置く。短く息を吐く。
「……その、足だせ」
成瀬が横目で見る。「は?なんで?」
航は逸らさない。「……ケガ、してんだろ」
沈黙。次の瞬間、成瀬の視線がほんの少し柔らぐ。
「よくわかったな」
「まあ、兄弟が多かったからな」
成瀬は一瞬だけ考えて、すっと足を出す。無駄のない所作。隠さない潔さ。
航が手当てを始める。手際がいい。迷いがない。
「……慣れてる」
「まあな」
成瀬は前を向いたまま、声を落とす。
「いいね、そういうの。現場で生き残るやつ」
包帯が巻かれる。指先が触れるたび、彼女は何も言わないが、力の抜き方がうまい。
少しの沈黙。
「モテるか?」
「は?」
「そういうやつ」
航は肩をすくめる。「まあ、結構」
一瞬。成瀬の口元がわずかに上がる。
「ふーん。顔で得してるわけじゃなさそうだしな」
「一言多いだろ」
「事実」
でも声は軽い。棘はない。
処置が終わる。航が手を離す。
「無理すんなよ」
成瀬は靴を履き直す。動きにブレはない。
「…別に、心配されるようなことじゃない。」
少しの間
「でも」
視線を逸らしたまま
「ありがと」
小さく、でもはっきり。
キーを回す。エンジンが唸る。彼女の横顔は静かで、どこか強い。
「次も同じことやれよ」
「は?」
「気づいて、動くやつ。嫌いじゃない」
一拍。航が笑う。「注文多いな」
「生き残れって言ってんの」
車が流れに乗る。街の光が二人を流していく。
(さっきまで殺し合いしてたのに)
でも今は、妙に現実だ。
「行くぞ」
「おう」
——第2任務、帰還。




