選ばれた俺は、試される
しごきにしごかれ、三年。
最初の一日は、覚えてる。
床に叩きつけられて、息ができなくなって。
「立て」
って言われて、立てなくて。
もう一回叩きつけられた。
二日目も、同じだった。
三日目も。一週間後も。一ヶ月後も。
——変わらなかった。
骨が折れた日もあった。
でも、次の日には立たされた。
「遅い」「反応が甘い」「考えろ」
殴られて、投げられて、潰されて。
でも、それだけじゃなかった。
“見ろ”“読め”“先に動け”
気づいたら、ただやられてるだけじゃなくなってた。
一発、避けた。
「……ほう」
初めて、声が変わった。
そこからだった。
避ける。読む。動く。
一つでも遅れたら、叩きつけられる。
でも——一つでも早ければ、当たらない。
それを、三年。
「……慣れてきたな」
息を整えながら言う。
「遅い」
即答。
「いや三年やってこれなんだけど」
「まだ足りん」
「厳しすぎだろ」
「死ぬよりマシだ」
「……経験者みたいに言うなよ」
一瞬の沈黙。
「似たようなもんだ」
(否定できねぇのがムカつく)
立ち上がる。足は震えてない。視界もブレてない。
(見える)
「で」軽く息を吐く。「次はなんだよ」
陸は、少しだけ間を置いた。
「入口を見つけた」
「……は?」
一気に現実に戻る。
「上層部の“裏”に繋がるルートだ」
「それが試験ってやつか?」
「ああ」
短い。
「やるか?」
「やるに決まってんだろ」
即答だった。
ほんの一瞬だけ、陸の口元が緩む。
「そうか」
一拍。
「じゃあ行くぞ」
夜。人気のない通り。
コンビニの明かりだけが浮いている。
「……ここ?」
「ここだ」
「普通すぎるだろ」
「普通だからいい」
(またそれかよ)
自動ドアの前で、一瞬だけ足が止まる。
——ただのコンビニに見える。でも、本能が嫌だと言っている。
自動ドアが開く。
いらっしゃいませ——
店内は、どこにでもある景色。
人はいない。
レジに、店員。帽子を深く被っている。
目が、笑っていない。
「……で?」
小声で聞く。
陸が短く言う。
「クッキーとお茶を持て」
「それで言え」
一拍。
「“サクラがみたくてね。いい場所を知っているだろうか”」
「……いや急に意味わかんねぇ」
「通じる」
「いや——」
「通じる」
(強いなこの人)
「俺は行かない」
「……は?」
「一人でやれ」
即答。
(またそれかよ)
「失敗したら?」
「知らん」
「軽っ!」
「成功しろ」
それだけだった。
(クソが)
棚からクッキーを取る。お茶も。レジに向かう。
(……名前)
ふと、引っかかる。
“三内光”のままでいいのか。
三年。全部、変わった。体も。思考も。覚悟も。
なのに——名前だけ、そのままかよ。
立ち止まる。
一瞬だけ、陸を見る。何も言わない。ただ見ている。
(自分で決めろ、ってか)
息を吐く。
「……原田」
口に出す。少しだけ重い。
でも——嫌じゃない。
「……航」
すっと、馴染んだ。
(これでいい)
“なあ、親父!俺の名前の由来何?”
“どうしたんだ、光”
“学校の宿題!”
——あの頃は、こんな日が来るなんて思ってなかった。
“航と、光で悩んだんだが。画数で光になったんだ”
“そうなん!”
“おい光!さっさと食え!”
“わかってる!遥!”
(なつかしいな。)
「…少々お待ちください。」
現実に引き戻される。
顔を上げる。
店員が、こちらを見ていた。
(あってたの、か?)
「こちらをご覧ください。それでは、幸運を祈ります。」
「どうも。」
コンビニ店員からは、パンフレットをもらった。
その名前は、『サクラの名所』
外に出る。
手の中の紙が、やけに重い。
(……始まったな)
その光景を見る男が、1人
ふっと、微かに笑う。
「ここから先は、俺は必要ないな」




