休暇終わり
陸の言葉のあと。
少しだけ風が変わる。
「続きだ」
その一言だけが残る。
(続き、か)
航は前を見る。
住宅街。
いつもの道。
でも一歩目だけが重い。
⸻
「で、どこ行くんだよ」
歩きながら聞く。
陸はすぐには答えない。
少しだけ間。
「本部だ」
「それは知ってる」
「正確には」
一拍。
「戻る」
(戻る?)
航は眉をひそめる。
「どこに?」
陸は横を見る。
「サクラだ」
⸻
その瞬間。
空気がわずかに変わる。
(サクラ)
あの任務の起点。
あの場所。
⸻
「……あそこが本部だったのかよ」
陸は歩いたまま言う。
「一部だ」
「一部?」
「お前が処理した第一任務は、そこに繋がっている」
⸻
陸が続ける。
「国会議員殺害事件」
一拍。
「東華暴走族更生案件」
「連続誘拐事件」
⸻
その瞬間。
空気が止まる。
(……は?)
航の思考が一瞬遅れる。
⸻
「それが第一任務だ」
陸は淡々と言う。
「それぞれ単体で動けば、専任課が作られるレベルの案件だ」
⸻
(3つ……)
一気に重さが来る。
⸻
「いや待て」
航の声が少し上がる。
「それ全部別々の事件だろ」
陸は止まらない。
「そうだ」
即答。
⸻
駅に入る。
人の流れ。
日常。
でも、その中にだけ違う線がある。
⸻
喫茶店。
『サクラテラス』
⸻
「……は?」
航は止まる。
⸻
「本部ってここ?」
陸は短く頷く。
「そうだ」
⸻
ドアが開く。
カラン。
ベル。
⸻
中は普通の喫茶店。
木のテーブル。
コーヒーの匂い。
笑う客。
⸻
(どこが本部だよこれ)
航は固まる。
⸻
「コンビニじゃねぇのかよ?」
思わず口から出る。
⸻
その時。
奥から声。
「遅いな」
⸻
空気が変わる。
ほんの少しだけ。
“重さ”だけが変わる。
⸻
カウンターの奥。
男が一人。
黒いコート。
崩れない姿勢。
笑っていない目。
⸻
陸が一歩だけ横にずれる。
短く言う。
「こいつが上だ」




